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【ブックレビュー】濱野ちひろ著『聖なるズー』

―トンデモ本!?とんでもございません、いたってマジメです
愛のあり方、性のあり様は、どこまでも深く、それでいて切ない

タイトル:聖なるズー
著者名:濱野ちひろ
出版社:集英社学芸単行本
発行年月日:2019/11/26

パートナーから受けたDVによって、愛や性にトラウマを抱えた著者は、苦しみと闘うために学術という鎧を身にまとう決意をする。京都大学大学院人間・環境学研究科へ進学。研究内容を決めかねている著者へ、指導教官が提案したテーマが“獣姦”であった。調べるうち、zoophiliaという言葉と出会い、動物性愛者(ズー)という存在を知る。単身ドイツへ渡り、世界唯一の動物性愛者による団体ZETAへの調査を敢行。修士論文をベースに、ノンフィクションに書き下ろした渾身の一冊。(第17回開高健ノンフィクション賞受賞)

■本書との出会い

いずれレビューできればと考えているが、『開高 健 電子全集』を全巻購入している。開高さんの文章は捨てるところがあまりない。酔いしれて、ポーッとなるばかりで、なかなか読み進めることができない。

開高さんのことをネットサーフィンしていたとき、開高健ノンフィクション賞のホームページで出会ったのが本書である。トンデモ本?キワモノ本?強烈な印象を残したものの、購入にはやはり躊躇があるというのが正直なところ。1ヶ月ほど前、セールされていたため購入に到った。

■動物性愛者の分類

動物性愛者(zoophilia)たちは、自らをズーを称していることから、著者もそれにならいズーと呼称している。

動物性愛とは、人間が動物に対して感情的な愛着を持ち、ときに性的な欲望を抱く性愛のあり方を指す。

これだけでも十分に衝撃的なのだが、さらに驚いたのは、ズーにも細かな分類があるということ。
・愛着の対象となる動物の分類
→犬や馬など大型の動物が対象となりやすい。対象が小動物の場合は、通常よりも強い愛着を感じるだけで性的欲望の対象とはならない場合が多い。


・愛着の対象がオスかメスかバイセクシャルか

・パッシブ・パート(受け身)かアクティブ・パート(責め)か

■分類の具体例

重要な登場人物となるミヒャエルという男性は、犬を好むズー・ゲイで、パッシブ・パートであるとのこと。つまり、

セックスでは動物のペニスを自身の肛門に受け入れる方法をとる

ということになる。本書には他にも様々な人物が登場する。その様はまさに十人十色である。

■動物保護先進国ドイツ

ドイツには捨てられた動物を引き取り世話をする、ティアハイムと呼ばれる動物保護施設が全土にある。動物保護先進国ドイツのはじまりは、ナチス時代に制定された「ライヒ動物保護法」という法律であるとのこと。

障害者・同性愛者・ユダヤ人などを容赦なく収容所送りにしたナチスの行為としては、かなり齟齬を感じる。その目的がユダヤ教への抑圧にあったことが引用を用いて説明される。ユダヤ人へ精神的な抑圧を行いながら、動物愛護というイメージ戦略も同時に成立させるあたりは、いかにもナチスらしい

■独自評価

◇文章の上手さ★☆☆☆☆
修士論文をベースとしているため、修士論文から引用されたであろう説明部分は明瞭なのだが、読みづらいところが随所に見受けられた。また、著者のDVが原点であるとはいえ、ルポルタージュであるにも関わらず“私”の多用がどうしても気になる。客観性が保てなくなったと著者は述懐しているが、それを差し引いてもという感がある。

◇表現の美しさ★★☆☆☆
好みが分かれるところにはなるが、挑んではいるものの…という印象。

◇情報の豊富さ★★★★★
ズー自体の情報はもちろんのこと、その背景についての情報も豊富。

◇内容の面白さ★★★★★
頭抜けている。さすが開高健ノンフィクション賞受賞作!!本書と出会わなければ、ズーの存在を知らぬまま人生を終えていた。

◇全体の難しさ★★☆☆☆
修士論文をベースとしながら、一般読者にも十分留意されている。

■まとめ

著者自身のDVに関する記載は、人によって感じ方は色々あると思う。それでも本書の魅力が色褪せることはない。すべてを書き切ることはできないが、驚きのエピソードや事実がひしめき合う。

描かれる世界はLGBTの遙か先を行っている。何に愛着を持つか、また持ってしまうのかは、本人にも周囲にも誰の罪でもない。もしかすると、開高さんの文章読んで、ポーッとなる筆者自身も読書性愛者(bookphilia)かも知れないのである。



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