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薬害のない精神安定剤のような

 生誕120年 長谷川潾二郎展「ひっそりと、ささやかに。あの日の先に」開幕まで3か月となりました。
 潾二郎の絵が好きすぎて、少しでも多くのひとに潾二郎の作品を実際に見てもらいたい、その一心で企画しました。
 
 長谷川潾二郎の作品に出合ったのは、わたしが異業種へ転職してすぐの時でした。右も左も分からず、経験も実力もなく、用語も理解できない。まるで海外にいるかのような状況で、不安を抱えながら日々出社していました。

 それが長谷川潾二郎の絵を見ていると、気持ちが落ち着き、「なんとかやれるかも」と励まされたのです。油彩画を手元に置く経験自体初めてでしたから、高揚感もありました。しかし、調べていくと、「潾二郎の作品は特別である」と感じている人は少なくないのです。


潾二郎はとても細い筆で丁寧に丁寧に描き、完成した作品は驚くほど薄塗です

初めて潾二郎コレクターとなったのは岩井宏方さんという方で、医師でした。彼は、様々な画家の作品を知人に勧められて求めましたが、「もうほとんど手許にはありません。長谷川先生の絵だけでいいんです。他の絵はいらないんですよ」と語っています。そして、「私は昔から蒸留水ではなく、自然の湧き水の透明さと風味をもっている長谷川潾二郎さんの絵が好きである。そして歳をとるにしたがって、その作品を身近に持っていてよかったと、しみじみ感じている。彼の作品は、私にとって薬害のない精神安定剤となっている」と記述しています。
(「夢人館4 長谷川潾二郎 岩崎美術社」より)

 医師らしい表現「薬害のない精神安定剤」。ほんとうにそうだなぁと思います。
ではなぜ、潾二郎の絵には心を穏やかにする、精神を健全に保つような作用があるのでしょう。
 それは彼のパーソナリティによるものの気がします。潾二郎は破滅型の画家ではなく、規則正しく、健康的家庭的な人物でした。絵を描くのも朝から夕方までで、夜の一家団欒を大事にしていました。
 一方で画壇とは距離を置き、絵で成功したい、名声を得たいという野心に突き動かされることなく、目の前の美をただひたすらに描ききることに人生を捧げました。
 彼のこの誠実さ、よどみのなさが作品に現れているように感じます。

「薬害のない精神安定剤」と表現される長谷川潾二郎の世界。
ぜひこの機会に触れてください。入場無料です。

▶生誕120年 長谷川潾二郎展 ~ひっそりと、ささやかに。あの日の先に
▶会期:2024年9月22日(日・祝)~9月30日(月) 
▶会期中無休 
▶午前10時~午後6時(最終日午後4時まで)  
▶入場無料 (販売なし展示のみ)
▶場所:鈴木美術画廊  東京都中央区銀座1丁目13-4大和銀座ビル
▶TEL.03-3567-1114
▶主催:長谷川潾二郎 愛好家

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