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エレジーは流れない

三浦しをんさんの小説「エレジーは流れない」は、温泉街で暮らす高校生たちの日常を描いた作品です。主人公の怜は、母親が二人いるという複雑な家庭の事情や、進路の選択、自由奔放な仲間たちに振り回されながら、悩み多き日々を送っています。ある日、町の博物館から土器が盗まれたという事件が起こり、怜たちはそれに巻き込まれていきます。
怜の幼なじみである竜人は、干物店の息子で、彼女の愛美とのラブラブぶりが目立ちます。もう一人の幼なじみである和樹は、喫茶店の息子で、怜に対してひそかな想いを抱いています。サッカー部の心平は、自然児で、動物や植物に話しかけることができます。旅館の跡取り息子である翔太は、お金持ちで、怜たちの仲間に入ろうとしますが、なかなか受け入れられません。これらのキャラクターたちは、それぞれに魅力的で、笑いあり涙ありのやりとりが楽しめます。

また、温泉街という舞台がとても魅力的です。餅湯温泉という架空の町は、海と山に囲まれたのどかでさびれた町ですが、そこには温かい人情や風情があります。商店街のテーマソングや、夫婦岩の恋人たち、ニセ城の博物館、暴れ祭りの神輿など、餅湯温泉の独特の文化や風景が描かれています。これらの描写は、読者に餅湯温泉の魅力を伝えるとともに、物語に深みや色彩を与えています。

高校生の日常を描いていますが、それだけではありません。怜の出生の秘密や、土器の盗難事件など、謎やサスペンスも含まれています。これらの要素は、物語にスパイスを加えるとともに、登場人物たちの成長や変化を促します。特に、怜は、自分の出自や進路について、深く考えることになります。そして、自分の気持ちに正直になり、自分の道を選ぶことになります。

これは大人にとっても共感できるものです。
私たちは、いつでも自分の人生を選ぶことができるのだと、この小説は教えてくれました。

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