「ブレイクスルー・ハウンド」103

塀の陰から躍り出た佐和が、銃を体に引きつけ気味にして姿を見せる。カー・システムという拳銃操作法を使っているのだ、右目は銃で隠し、左目で照準するエクステンデッドに銃を構えている。
 光は、改めて周囲の安全を確認して佐和に歩み寄った。
「怪我は」「かすり傷だから大丈夫」
 光の問いかけに、佐和は強い意思を宿した瞳をこちらに向ける。それ以外の意見は認めないと怒鳴っているように見えた。
 それでも、悪かった、と光が思ったとたん、
「君をこの作戦に巻き込んだこと、間違っていたかもしれない」
 と佐和が表情を翳らせた。
「だったら」「でもね、それでもやらなきゃいけないことをやらなきゃいけないときがある」
 その言葉に、光は喉を詰まらせる。
 今しがた、光は銃を使っていればもっと状況を有利に、安全にくぐり抜けられるシチュエーションに置かれたばかりだ。佐和の言葉の正当性を真正面から認めることはできなかった。そもそも、父は恐らくどちらかを生かすかを選ぶことから逃げた。
「立ち話している場合なんですか?」
 杏が、周囲を警戒しながら問いかける。純は無言で姉の死角を補っていた。
 そして、杏の言った通りの事態が起こる。迂回軌道をとっていたであろう敵が四人、姿を現わしたのだ。
 まずい、先手を取られる。

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