椎骨

習作。

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記事一覧

まあでも、それでもいいんじゃないか(日記)

小説を書きたい、と思っているわけではない。 文章を書くのが好きだ、という話でもない。 たぶん、書かないと辛いのだと思う。 高校生くらいの頃に、携帯で千~二千字くら…

椎骨
3年前
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丁度良く、それでいてなんでもない日

「今からお手伝い、頼めるかな」  縁側から足を投げ出し、干した洗濯物を眺めていた俺に、神様がそう尋ねた。 「いいよ」  俺の答えがその三文字であることを分かってい…

椎骨
3年前
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夜は呼吸をしない

 月が出ている。やや膨らんだ半月型の紙切れのような淡い光が、深い夜の中にぽつんと浮かんでいる。薄い雲が時折その形を覆うが、それでもここ数日続いた曇り模様の夜空よ…

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3年前
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どこかへ至るもの

 この無人駅から乗車するのは、実に五年ぶりだった。  当時を懐かしむ思いと、未だに変革の兆しを見せないこの駅への呆れにも似た安堵を抱え、ホームに停車した二両編成…

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5年前
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春にお前を食うまでに

  それは動物ではなく、ましてや植物でもなかった。  十代の少女のような姿形をしていたが、額から天を突くように捻れ伸びる二本の角が、それが人であることを否定して…

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5年前
3

神様がいる夏

「髪、切ったんだね」  そう聞くと、俺の隣にいるひとは縁側に差し込む陽射しの中でうっすらと微笑み、うんと答えた。  夏だからかなと思ったけれど、このひとが汗をかい…

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6年前
2

春にお前を食うまでに

 それは動物ではなく、ましてや植物でもなかった。  十代の少女のような姿形をしていたが、額から天を突くように捻れ伸びる二本の角が、それが人であることを否定してい…

椎骨
6年前
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まあでも、それでもいいんじゃないか(日記)

小説を書きたい、と思っているわけではない。
文章を書くのが好きだ、という話でもない。
たぶん、書かないと辛いのだと思う。

高校生くらいの頃に、携帯で千~二千字くらいの文字を打つ習慣があった。
創作活動というよりも、頭の中に思い浮かんだことを書き出す作業に近かったと思う。オリジナルの、所謂一次創作だったり、好きな作品の二次創作だったり、割と何でも楽しく書いていた。
小説作品は好きだが、元々読書家と

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丁度良く、それでいてなんでもない日

「今からお手伝い、頼めるかな」
 縁側から足を投げ出し、干した洗濯物を眺めていた俺に、神様がそう尋ねた。
「いいよ」
 俺の答えがその三文字であることを分かっていたはずなのに、神様は「ありがとう」と律儀にお礼を言う。
 一応、この村の決まり事を守っているのだろう。相手がやりたくないことを強要しない、自分がしてほしいことには了承を取る。それは神様も例外ではなく。
 ただ、神様は神様なので、俺がそれを

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夜は呼吸をしない

 月が出ている。やや膨らんだ半月型の紙切れのような淡い光が、深い夜の中にぽつんと浮かんでいる。薄い雲が時折その形を覆うが、それでもここ数日続いた曇り模様の夜空よりはマシだろう。
 部屋からベランダへ続く窓を開けると、雨上がりの匂いに似た湿気が頬を掠めた。月の見えない夜が続くことを、こんなにも憂鬱に感じる日が来ようとは。そんな、数年前の自分なら思いもしないことを考える。
 月光を肌で感じることができ

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どこかへ至るもの

 この無人駅から乗車するのは、実に五年ぶりだった。
 当時を懐かしむ思いと、未だに変革の兆しを見せないこの駅への呆れにも似た安堵を抱え、ホームに停車した二両編成のワンマン車両に乗り込む。この駅から乗車する客は、私一人だけだった。
 四人が向かい合う形に座るボックス席と、広い窓を背にした長いベンチのような席のどちらにも、私以外の客の姿はない。終電の一本前という微妙な時間であることと、たった六駅にしか

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春にお前を食うまでに

  それは動物ではなく、ましてや植物でもなかった。
 十代の少女のような姿形をしていたが、額から天を突くように捻れ伸びる二本の角が、それが人であることを否定していた。
 少女のようなものは、透明な鉱石に似た二本角で空を仰いだ。角の芯が、夜の森を柔らかく照らす月光を蓄え、微細な輝きを放ち始める。
 この息を飲むような非現実的な光景も、暗視装置を通していたら味気ない単一色の映像でしかなかっただろう。暗

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神様がいる夏

「髪、切ったんだね」
 そう聞くと、俺の隣にいるひとは縁側に差し込む陽射しの中でうっすらと微笑み、うんと答えた。
 夏だからかなと思ったけれど、このひとが汗をかいた姿を見たことがないから、そういう理由ではないのかもしれない。三年前の夏休みにここへ訪れたときも、この人は長く伸ばした髪を少しも鬱陶しそうにはしていなかった覚えがあるが、あれは見ているだけで暑苦しかったから今の方が余程いい。
「涼しそう」

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春にお前を食うまでに

 それは動物ではなく、ましてや植物でもなかった。
 十代の少女のような姿形をしていたが、額から天を突くように捻れ伸びる二本の角が、それが人であることを否定していた。
 少女のようなものは、透明な鉱石に似た二本角で空を仰いだ。角の芯が、夜の森を柔らかく照らす月光を蓄え、微細な輝きを放ち始める。
 この息を飲むような非現実的な光景も、暗視装置を通していたら味気ない単一色の映像でしかなかっただろう。暗視

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