神様がいる夏

「髪、切ったんだね」
 そう聞くと、俺の隣にいるひとは縁側に差し込む陽射しの中でうっすらと微笑み、うんと答えた。
 夏だからかなと思ったけれど、このひとが汗をかいた姿を見たことがないから、そういう理由ではないのかもしれない。三年前の夏休みにここへ訪れたときも、この人は長く伸ばした髪を少しも鬱陶しそうにはしていなかった覚えがあるが、あれは見ているだけで暑苦しかったから今の方が余程いい。
「涼しそう」
「そうだね」
 本当に涼しいと思っているのか、よく分からない顔だなあと思う。俺の横にある扇風機も、たぶん村の人が勝手に持ってきたもので、このひとが必要だからと置いているものではないのだろう。
「髪、切りたいなら紹介しようか」
「床屋さんなんてあったっけ、ここ」
「"髪切りさん"ならいるよ」
 短くしてもらったら、涼しくなるよ。そう言って"神様"は、やはり暑さを知らないような顔で、眉を隠すほどに伸びた俺の前髪に指を通した。

【続く】

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