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「芸術の本」3選 FIKAのブックトーク#28

こんにちは、FIKAです。
毎回1つのテーマで数冊の本を紹介しています。

今回のテーマは「芸術」。
芸術の美しさを堪能できる小説を3冊紹介したいと思います。




「一線の湖」 砥上裕將

両親を事故で亡くし自分の殻に閉じこもっていた青年が水墨画と出会って生きる意味を見出していく小説「線は、僕を描く」の続編です。

「線は、僕を描く」が完成された物語だったので続編がどうなるか不安でしたが、全くの杞憂でした!

主人公の霜介は大学3年生。卒業後の進路はどうするのか、水墨画とこれからどう向き合っていくのか、まだまだ迷うことばかりで、師匠の言葉も素直に聞けません。
そんな時、小学生の水墨画教室で講師を引き受けた霜介は、子どもたちが自由に絵を描く姿に新鮮な驚きと感動を覚え、絵を描くことの喜びを改めて感じるようになります。

圧巻は、師匠の引退式で霜介をはじめとする4人の弟子たちが描きあげる揮毫の場面。大勢の観客が見つめる中で、4人が次々にバトンタッチしながら思い思いに筆を走らせ、一つの大きな絵を仕上げていく。水墨画とは絵であると同時に、やり直しのきかない一過性のパフォーマンスであるという点で音楽に通じるところもあると思います。彼らの描く絵からはまるでオーケストラのように溢れてくる音楽とハーモニーを感じました。

続編の本書だけでも楽しめますが、ぜひ第1巻の「線は、僕を描く」から読んでみて下さい。水墨画の魅力や霜介の成長がよく分かると思います。



「鯨オーケストラ」 吉田篤弘

寓話のようなファンタジーのような、不思議な魅力に満ちた小説です。

地元のジャズ楽団でクラリネットを吹きながらラジオ局で深夜番組を担当する「僕」は、ある日番組で「17歳の時に絵のモデルをした」という話をしました。するとリスナーから「僕」によく似た肖像画を見たという葉書が届いたのをきっかけにとある美術館を訪ねます。

この美術館の描写が素晴らしい。

地下のほの暗い展示室にある深海魚の絵から始まって、少しずつスロープを登るにつれて魚たちも深い海から浅い海に棲むものに変わり、周りも明るくなっていきます。
最後にたどり着いた光溢れる部屋には、大きな大きな鯨の絵が展示されていました。「僕」はそこに「音楽」と「神」を感じます。この場面がすごく好き。

時間も空間も超えていろんな出来事が繋がっていく奇跡を描く静かで美しい物語です。



「spring」 恩田陸

踊ることで世界を創造する。
ある天才ダンサーを描くバレエ小説です。

「蜜蜂と遠雷」のような青春群像小説かと思ったのですが、むしろ「天才」を描くことを主眼にした「チョコレートコスモス」に近い作品だと感じました。

主人公萬春よろずはるという稀代のダンサーにして天才振付家を、様々な人の視点で描きます。第1章は同期のダンサー深津、第2章は成長を見守ってきた叔父の稔、第3章はかつてのバレエ仲間で作曲家の七瀬、そして最終章は春自身の視点で。

この天才児がどのようにしてバレエと出会い、どんな人生を歩んでその才能を開花させたのかというストーリー自体も十分面白いのですが、何と言っても素晴らしいのは春が振付したオリジナルのコンテンポラリー現代バレエ作品の描写です。
春のオリジナルということは、当然作者の恩田陸がゼロから作り出した訳ですが、そのストーリー、構成、演出がバレエというよりまるで演劇を見ているかのようなドラマ性があってとにかくすごい。そういう意味でも演劇がテーマの「チョコレートコスモス」に通じるものを感じました。

春のダンスや作品を見てみたい。春の目でとらえた世界が踊りを通して再構築されるのをこの目で見たい、と思わせる素晴らしい芸術小説でした。



以上、3冊の本を紹介しました。
「文化の日」ということで、美術や音楽、舞踏などいろんな芸術の本を選びました。

読んでくださってありがとうございました。

(おまけ)普段は週1の投稿ですが、10月27日から11月9日の「読書週間」は2週間連続投稿にチャレンジ中です。よかったらお付き合いください。(読書週間第8日目)


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