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好きだった子がSNSのアカウントを消した。

TwitterもInstagramも何もかもやめてしまった彼女の存在は今後もうわからない。僕は彼女の名前も住んでいる場所も、何もかも知らない。全ての繋がりを消す理由もわからない。もしかしたら彼女と共に働いていた子に聞けば何かしらの情報はわかるかもしれない。もしかしたら断片的に載せられていた画像から辿ればお店や出入りしていた場所に辿り着けるかもしれない。でも、それはしない。それは、できない。それは彼女の望みとは違う。「生きていたら、また会えるよ」という言葉が全てをあらわしている。どうしたって彼女に会う気がないのに僕が突然押しかけてきたら恐怖でしかないだろう。

推しは推せるときに推せ。
好きではないけれど、よく聞かれる言葉だ。
本当にその通りなのかもしれない。この業界(コンカフェやアイドル)いつ別れがあるか本当にわからない。突然の卒業もあれば、繋がりによる解雇もある。会えないままの別れはどちらも心に悔いが残るだろう。めそめそしてしまうなんて冗談めかしたツイートをよくするけど、夜に思い出すと本当に悲しくなる。

彼女が唐突にお店を辞めさせられた時、SNSや掲示板には非難の言葉が数多くあった。彼女に対しての批判や否定的なコメントがあふれていた。だが、支持も擁護もする言葉は何一つ見つからなかった。何がわかる? 会ったことも話したこともない人間が彼女を批判する資格はあるのか? 自分自身の意見もないのに何故彼女を攻撃するのだろうか? 決して僕はしないが、しないが、それでも、もしするならば、それは関わった僕ではないのか? 
推しは推せるときに推せ? でも、そんな簡単に割り切れるものだろうか。本当の意味での支えにしてきた人々にとって、彼女との別れは心に深い傷を残すものだったに違いない。今まで悔いのないくらい応援したから最後がなくたって良い。果たしてそんなふうに思えるだろうか。彼女のために時間やエネルギーやお金を使い、応援してきた人々にとって彼女があまひにも急にいなくなることは、心にぽっかりと穴を残すことになる。彼女との思い出が次第に薄れていく中で、悔いや後悔が増していくのかもしれない。とにかく僕は多分無理だ。

物語にはっきりとした区切りをつけるには、最終回がエンドロールが舞台の暗転が必要だ。心に区切りをつけるのも全くもって同じだ。お別れが言えないと、いつまでも未練が残ってしまう。彼女との繋がりを断ち切ることは、彼女を応援し続けてきた人々にとっては大きな試練だったと思う。彼女がいなくなることで、多くの人々が心に穴を開け、寂しさや切なさを感じるのは当然だろう。何をすればこんな気持ちにならなかったのか。何をすればよかったのか? あるはずのない未来? 過ごしたかった時間? 伝えられなかった心残り? 喜んでくれるだろう贈り物? 彼女を想像するだけで、もっとたくさんの思い出を作ることができたのにと後悔する人々も多いだろう。彼女との時間を大切にし、彼女の笑顔を思い出して、彼女を応援し続けることができたのかもしれない。

どうしたって望む結果が来ないのがわかっているならせめてさよならを面と向かって言わせて欲しかった。紛れもない独りよがりの気持ちではあるけれど。彼女を大切に思ってきた人々の中には、対面して彼女に別れの気持ちを伝えたいと願う人々もいたことだろう。しかし、彼女との関係が特殊な繋がりであることから、それは叶わない(要はお店でしか会えない)。彼女との最後の瞬間を共有したかった人々にとっては、さよならの言葉がないことは苦しい現実だったに違いない(僕だけじゃないよね)。

彼女とはまたねと言って別れた。笑顔で手を振ってくれる姿が好きだった。見えなくなるまで笑顔で見送ってくれる姿が好きだった。彼女との最後の別れを自然に言葉にすることができない人々もきっと多かったことだろう。彼女の笑顔や姿が忘れられず、別れを直視することが辛く、かつての幸せな気持ちや懐かしい気持ちを抱く人々も多いだろう。彼女との繋がりを断ち切ろうとすることは、逆説的に彼女が去っていった後でも彼女の存在が心に残り続けることを意味する。

「またね」ある意味定型文ではある。それは次があると確信しているからこそ発することのできる言葉だ。次が二度とない「またね」なんて誰が言うだろう。こんな事態を誰が想定していたのか。だからこそもっとたくさんの思い出を作っておけばよかった。あっけない幕切れは心から応援し続けてきた僕にとって、彼女との繋がりを切ることは辛い決断だった。

もうきっと君には会えないだろうけど、どこかで泣いたり笑ったり元気でいてくれたらいいなと思っているよ。今までありがとう。さようなら。

ああ、もっと未来を紡げていたらな。
なんて、こんな言葉誰にも伝わらないけど君になら伝わるかな。

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