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ミッド・サマー / アリ・アスター

割引あり

冒頭のシーンで彼女は両親に留守電を、次いで彼氏に、そしてまた誰かに...と連絡を取り続ける。彼氏は適当に答える。

彼女の友達は4人の男たちである。彼女の彼氏は、彼女の親族が亡くなり、彼女を慰め共に明かした夜の次の日、友達のパーティーに行く。彼女はついていく。

スウェーデンへの旅行が男たちの間で暗に決められており、彼女も誘われる。彼女は彼氏を詰問する。「なんで私にだけ教えてくれなかったの?」彼女はヒステリーを起こす。彼女はついていく。旅行は親族が亡くなり泣き明かした夜から一週間後のことである。

ペレの故郷でクスリを勧められた時、彼女は後にすると言う。が、マークの言葉をうけて、数十秒後には一緒に吸うと言い、その通りにする。しばらくして、彼女はヒステリーを起こす。彼女はついていく。

2日目、アッテストゥパンを見て、幻覚を見、彼女はヒステリーを起こす。

その後コニーを置いてサイモンが消えた。彼女はやたらと気にする。彼氏に訴えるも、彼は軽くあしらう。そのときスクリーンには彼氏の顔は映らない。

そしてその晩、彼女は帰りたいと言った。彼氏は残ると言った。喧嘩した。彼女はヒステリーを起こす。翌日彼女のみ誤った。彼女はついていく。

喧嘩したとき彼氏は言った。「お前に言われると自分が悪いような気がしてくる。被害者ぶりやがって。」

彼女はついていく。それでも彼女はついていく。

スウェーデンのかの地で、アメリカ人たちは原始的な宗教の儀式を目撃する。一部はそのコミュニティーの強固さを感じたことだろう。そしてその文化を3日間に渡って浴び続ける。いや、選抜されると言うべきか。最初の方でペレは言われる。「お前の人を見る眼=選ぶ目は確かだよ。」

白人の男マーク。彼は異文化に対して、否、何に対しても全く理解がない。頭の中はファックで満たされている。そして神木にしょんべんをひっかける。彼は殺される。

黒人の男ジョシュ。彼は学術的なアプローチをもってその文化を理解しようとする。この場合の学術的とは、客体と自身を切り離しその間に線を引き、一歩引いて観察する営みである。動物なんかを見るように。そしてクリスチャンに対抗心を燃やし、差をつけたいがゆえに、禁じられている聖なる書物の写真撮影を敢行する。この彼の行動は真にかの文化に対して敬意を払っているとは言えないし、その感覚の前に競争意識がはたらいている。なんと浅ましいことか。彼は殺される。

白人の男女サイモンとコニー。彼らはアッテストゥパンの後一行を離脱する。いや、脱落する。男は女を置き去りにして。女は男を追いかけて。

白人の女ダニー、彼女はアッテストゥパンの後帰りたいと言った。ペレが彼女を説き伏せた。彼女は残った。

彼女は踊った。現地のうら若き娘たちと。木のモニュメントの周りを一緒にクルクル踊った。周りの女たちは彼女を心から向かい入れたかにみえる。彼女もそう感じたに違いない。なぜならカメラが語っている。

ふとその時、彼氏が見える。

現地の人の祝福を受ける中、唯一彼氏は俯いている。彼女は不安に駆られた。その前日、彼女は彼氏に言った。「あなたもやりそう。」それはサイモンとコニーの一件の後のことだ。

その後、彼女はフラフラになりながらも踊り続ける。めまいがしても、まだ踊る。あと8人、あと3人...

彼女はついていく。それでも彼女はついていく。

優勝した。彼は...?

祝福の列に一人ついてこない。心からの祝福を現地の人はしてくれているというのに。

食事の席。彼は一人もそもそしている。赤毛の女が立ち上がって彼の方へ。

彼女は気が気でなくなる。

儀式は続く。彼女は彼を見えないところまで連れていかれる。

彼氏は現地の女と学術研究のために交わる。

彼女はそれを垣間見る。彼女は泣く。と言うよりヒステリーを起こす。現地の娘たちは一緒になって泣いてくれる。

彼女のヒステリーは、決まって自分だけ~、という時に起きる。疎外感によって引き起こされる。彼女は自身の辛く重い事態にもかかわらず、男たちの気まぐれについていく。彼女はついていく。それでも彼女はついていく。あァ、これこれ、どこかの島国を思い出す。

ラスト・シーン。彼女は彼氏の生死をその手に握る。

彼女はついていかなかった。

彼女は燃え盛る神殿を前に踊る男女の中で、泣き、微笑む。この微笑は何を意味するのか。この映画の意図はこの一点に集約されている。

冒頭のシーンや、この文章の序盤で書き並べたのはアメリカ人たちの人間関係が引き起こす様々な感情、と言うより一つの感情、「不安」だ。切り捨てられそうで怖いから、何人にも絶えず連絡を取り続ける。とり続けて、はたと気づく。これによって自分は「重い女」と思われたんじゃないか、と。故に、ついていく。彼女はついていく。それでも彼女は、ついていく。

男たちの事情は軽いもんである。ファックとシェットが交互に入るおしゃべりを続けたい、とか。卒論が書きたい、とか。一緒にトリップしたい、とか。それに比べて彼女はどうだ。彼女の両親はどうなった?妹は?彼ら親族は今までどんな生活だった?そして彼女の様子はほぼヒステリーではないか。

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