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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2023年12月の記事一覧

【超短編小説】 電車にピース

【超短編小説】 電車にピース

彼は、いわゆる撮り鉄。

ホームの一番前まで走っては、カメラに電車を収める。

「次は5番ホームに新型車両が入って来るんだ」と、レストランで大好物が出されるかのような顔をする。

私は何が楽しいんだろうと思いながら、いつになくテンションの高い彼を横目に見ていた。

たぶん、今の彼を止めることは出来ない。

私なんかそっちのけ。

彼の目に映るのは遠くから迫りくる銀色の輝き。

ふいに、私は思う。

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【超短編小説】 消しゴム

【超短編小説】 消しゴム

俺は急いでいた。アカネが転校する。

今日は引っ越しの当日だった。

俺は坂道を走り、家の前に辿り着いた。

引っ越しのトラックが停まっている。

「ハアハア、間に合った」

ダンボール箱を抱えたアカネが玄関から出てきた。

「どうしたん?そんな慌てて」

「お前にさ、渡し、渡し忘れてたから」

俺はポケットから消しゴムを取り出した。

「それ、うちが貸した消しゴムやん。もう無くしたんかと思ってた

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【超短編小説】12.3 45° 6回目 気温7℃

【超短編小説】12.3 45° 6回目 気温7℃

月と交信している。

誰もが笑った。

「そんなことして、何の意味があるんだよ」

意味?意味なんているのか。

僕は好きだから電波を探しているだけだ。

アイツらは目的と概念を欲しがった。

申し訳ないが、そんなものはない。

少なくともこの方法で上手くいくのかさえ分からない。

だが、僕は月を知りたかった。

「社会ってさ、正しい方法ばっかりを求めるよな。その基準ってさ、一体、どこにあるんだろ

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