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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2022年8月の記事一覧

【超短編小説】 足跡

【超短編小説】 足跡

ふと振り返る。

これまでの足跡を。

何となく流されて、

いつの間にか、ここに来た。

良いこともあった。

悪いこともあった。

でも、それは全部、私にとって大切なこと。

この日のために用意されたシナリオ。

次に進むための試練。

また、今日から新しい一歩が始まる。

これまでとは違ったことが動き出そうとしている。

だから、絶対に忘れない。

地面にくっきりと残した

この足跡を。

【超短編小説】 ラベルレス

【超短編小説】 ラベルレス

彼にはラベルがなかった。

冷房がガンガン効いた部屋の中で、彼は仲間を携えて並んでいた。

ふと周りを見ると、同じようにライバル達がすぐ隣に立っている。

奴らは赤や黄色やオレンジと、

やたらと目立つ色を身に纏い、自分が選ばれることを今か今かと待ち望む。

しかし、彼にはそんな気配すら全く感じられない。

むしろ「私は透明ですから」と澄ました顔をしている。

このラベリング社会において、彼は真っ

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【超短編小説】 スライム

【超短編小説】 スライム

家に帰る途中にグチャと音が鳴り、何かを踏んだ。

暗闇の中で足元がよく見えない。

スマートフォンのライトで照らして靴の裏を見ると、スライムが付いている。

「誰だ、こんなところにスライム落としたのは」

私はそう思いながらスライムを靴から剝がそうとするが、なかなか取れない。

「仕方がない」

ペタペタと音をさせ、スライムを両靴に付けたまま家に帰る。

玄関でもう一度靴の裏を見てみると、黄緑色の

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【超短編小説】 心の中

小学3年生の僕は、相手の心が分かる。

こう言うと怪しく聞こえるかもしれない。

でも、本当だ。

だって、僕は相手の心の中に入ることができるからだ。

入り方はとても簡単。

気持ちを知りたい相手に「あっ」と言ってもらうだけ。

相手が「あっ」と言った瞬間に、僕は心の中に入って、相手が何を考えているかを知ることができるのだ。

ただし、なぜか分からないけど、1日に3回しか使えない。

たぶんそれ

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【超短編小説】 未完成

【超短編小説】 未完成

大人になるまで気付かないことがある。

なんとなく、憧れていた夢は実現するまでにかなりの時間がかかったり、

逆に実現することの方が少なかったりもする。

すぐに恋人ができてすぐに結婚できると思っていたあの頃に比べると、

そんなに単純ではないことを思い知らされる。

キラキラしていた世界が、今はどこか違った形をしている。

おそらく、昔の自分が今の自分を見れば、

「何してんだよ」と言ってくるか

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【超短編小説】 希望の光

【超短編小説】 希望の光

大人からの何気ない視線が気になる。

どう見られているのだろうか。

嫌われたらどうしよう。

中学生の朱里は、そのことばかり気になって仕方がなかった。

でも、数学の堀内先生は違った。

先生は私のことを馬鹿にすることはなかったし、

何よりどんな生徒にも温かった。

きっと、堀内先生はとても頭が良いんだと思う。

でも、先生はそういう姿を見せない。

先生は程よい距離感で色んな生徒を見つめてい

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【超短編小説】 存在

【超短編小説】 存在

ここにAとBという二人の人間がいる。

この時、二人は存在している。

それは紛れもない事実だ。

考えてみれば、存在とは不確かなものである。

それは、突如として失われてしまうかもしれないあやふやさを抱えている。

この存在がいつまで維持されるかさえも分からず、

また、いつの日かAとBのどちらかが、自分がどこに存在しているかさえも理解できなくなることもあるかもしれない。

しかし、この瞬間、こ

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