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IoT。
あらゆるモノやサービスがインターネットに繋がってゆく。
我が家にもIoT家電が増え、生活は便利になった。
そして今日、待ちに待った製品が届く。

『IoTたこ焼き器』だ。

なんでもたこ焼き器は、家電の中でもっとも『あってもなくてもいいもの』に選ばれてしまい、開発が遅れた。
大阪生まれの私にとっては憤りを感じる出来事ではあるが、どこか納得してしまう。
一家に一台、いや友達含めて一台持っていたら十分だし、不遇な扱いを受けるのもたこ焼き器らしくて、なんかいい。

そんな状況に待ったを掛けたのが、西梅田に本社がある(株)KONAMONだ。
アナログのまま取り残されたたこ焼き器をIoT化し、販売を始めた。
たまたま付けたワイドショーでは『たこ焼きベンチャー』として紹介されていた。

 ◇

IoTたこ焼き器が到着するとすぐに電源を入れ、Wi-Fiに接続した。
スマホには専用アプリをダウンロード。
チュートリアルで使い方をキャッチアップすると、生地を流し込み、スイッチオン!
すると電源ボタンは橙に光り、ゆっくり焼け始めた。

ああ、いい匂い。

火力の調整もアプリで済ませられるのが素晴らしい。
しばらくすると、スマホの画面には8本の足がニュルリと現れた。
同時に飛び出してきた吹き出しには「僕の出番だよ!」と書いてある。
文字のフォントは習字で、タコスミを連想させるこだわりが見えた。

私は一つ一つの『焼き』にタコを投入し『タコ焼き』を仕上げてゆく。
タコ焼き器はタコの重みの微妙な変化を感じとるのか、スマホには「ありがとう」の言葉とタコ本体のイラストが現れた。

そして画面の『→』にしたがってスワイプスると、たこ焼きがぐるぐると回り始めた!!

すごい!楽しい!ドキドキする!

“ヴォン”

焼き上がりはスマホのバイブで知らせてくれた。
その場でソース・青のり・鰹節をかけると、AIが重量を読み取り、カロリーや糖分の総量を、連携している食生活管理アプリに送ってくれた。
徹底したデジタル化に大満足だ。

さあ、食べよう!

「あなたー!」
私はテレワーク中の夫を呼び、ロシアンたこ焼きを提案した。
たこ焼きの中のひとつに、こっそりワサビを注入していたのだ。
彼もずっと家で仕事をしていると飽きがくるのか、賛成してくれた。
じゃんけんで先行後攻を決め、ふたりで順々に食べていく。
そして最後のふたつ。私は右、夫は左を選んだ。

「うげっ……」
負けたのは夫だった。
ざまあみろと思ったが、入れたワサビの量が多すぎて、夫は口を抑えながら一目散に洗面所へ向かった。
私もすぐに立ち、夫の介抱に付いて行く。
その勢いで机の上に青のりと鰹節が飛び散った。

夫の顔を見ると涙が流れ、むせていたが、怒ってはいなかった。
よかった。許してくれる夫で。

さあ、掃除しないと。

私は台所で布巾を絞り、机に戻った。

あれ?
机の上がきれいだ。

まさか!

私がたこ焼き器を持ち上げると、裏に吸い込み口が付いていた。

ルンバも搭載されているとは……。


<了>


この話の、二次創作インタビューがこちらです↓↓
『たこ焼き器2.0』の開発秘話を書いてみました。


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