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僕と桐島【エッセイ】

いつからか、本をよく読むようになった。
小説、新書、エッセイ、ショートショート、図鑑、タレント本など、気になったのは何でも読むようにしている。

ある日、よく行くファミレスで朝井リョウさんの「桐島、部活やめるってよ」を読みふけっていた。
桐島と言う主人公が何かの部活を辞めるまでの話だと先入観を持って読んでいたが、最後の最後まで桐島は出てこなかった。
桐島が部活を辞めたことによる周りへの影響を、群像劇で綴った力作だった。
題名やストーリーはもちろん、表現力豊かな文体は読んでいて楽しく、衝撃的な場面もたくさんあった。

読み終わってファミレスを後にし自転車をこいでいると、家路の途中でワゴン車でたこ焼きを売っていた。
ラッキーと思い、8個入りを購入。
カリッとしているというよりは、少しベチャっとしていて、つま楊枝で持ち上げると形が崩れるタイプなのは見た目でわかった。
徳島の実家に住んでいた頃、母がよく買って帰ってきた思い出のたこ焼きに似ていた。

家に着き、コップに水を入れ、音楽を流し、食べる。
味はもちろん美味しく、発泡スチロールの容器に弾かれるソースの光景がどこか懐かしかった。

3つ目を口に入れたところで、異変に気がついた。
タコが入っていない。

よく考えたら、今まで食べた2つにも入っていなかった。
僕はたこ焼きから「たこ」を引いた「焼き」をずっと食べていた。
右の列を縦に3つ、全部「焼き」だった。
その下も「焼き」だった。
家から近いし、ワゴンまで言いに行こうか。
いや、そんな勇気はない。
言ったところでタコだけもらっても困る。
僕には美味しいたこ焼きを作る技術もないし、イボイボの特殊なプレートも持っていない。

4つ目の「焼き」を食べ終わり、左の列に楊枝を伸ばす。

ん、この感触は?

タコだ!!

解体してみると、なんとタコが2つ入っていた。
その下も、その下も、その下も。
左側の全てが「タコタコ焼き」だった。
ミステリーが解けて、思わず笑った。


美味しく平らげて、椅子からソファーに移る。
カバンを開き、「桐島、辞めるってよ」を本棚にたてる。
もしかしたら、僕が購入した隣の「桐島、部活やめるってよ」には、桐島が2人出てくるのかもしれない。



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