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#創作大賞2024

羊の思い出

羊の思い出

洋にそういう気持ちになったのは
子どもの頃、一緒にお化け屋敷に入ったのが
きっかけだった。

「うーん。怖いの苦手だなー。嫌だなー」子どもの頃の洋。
「大丈夫だよ。僕がいるもん」そう強がる僕。

そう言いながら、僕もお化けは苦手。それでも、入ろうとした理由は、
お互いの母親同士の談笑で夜中1人でトイレに行けない話を洋の前でされて恥ずかしかったからだ。
それで強がりたかったのでお化け屋敷に入ろうと誘

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鬼頭光司の独白

鬼頭光司の独白

子どもの頃から、ほとんどの勝負で勝ち続けてきた。
大学に入ると、上澄みばかりが集まるから、自分はそこで「天才」ではないことを知った。
それでも、日本を変える方法はいくらでもある。
手始め。ほんの手始め。実験的にリコピン教を作った。
軌道に乗れば、本命の宗教や、教育、ビジネスに手を出して、宗教、教育、経済の次は政界との流れを考えてはいた。

リコピン教は学生のお遊びで作ったものだけれども手応えを感じ

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リコピン教

リコピン教

リコピン教。教祖は鬼頭光司という人物らしい。その宗教活動内では別名で活動している。
布教活動の際に、団体名、その代表者の本当の
名前を伏せて行われることが多いため、鬼頭光司の名前は知られていない。
リコピン教の実態はカルト宗教のそれだったので、そのままを喜多さんに説明した。
宗教は抽象的な話になるけれど、救いや赦しに繋がれば意義があるとは思う。
しかし、その方法や目的が本来の宗教の在り方から外れた

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チャーミーの独白

チャーミーの独白

蚊取り線香を眺めるのが好きだ。
グルグルと火種が燃え、次第に小さくなり、そっと消える。自分の役割に重なるようで。

魔法は大きな力だ。
ゴツゴウシューギなんてふざけた名前だけど、自分に都合のいいように事象を曲げる……なんでもありな力。
そんな力を持って人間界に放たれる。
長い歴史の中で自分たちの力を利用して滅びた様しか見なかった。人は小さな欲や小さな正義感から段々増長していき、欲で滅びていく。

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野呂野呂亮の振り返り

野呂野呂亮の振り返り

一年365日を半分に割ると、7月上旬にあたるらしい。それはとうに超えているし。初めての大学生活も春学期という半年を終えてしまった。
長い長い夏休み。僕の予定といったら、バイトと集中講義くらいだと野呂亮がぼやいていた。
そんなこと言いながら、バイトにそんなに精を出さないのは
「僕、夏の間は吸血鬼みたいに陽に当たると死ぬんだ」と言って、週4程度にとどめているらしい。

「いや、正直、大学に入れば、彼女

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喜多明里の本心

喜多明里の本心

喫茶店『南風』
野呂亮君のバイトの日ではないことは確認している。私はチャーミーさんを待っている。

彼にチャーミーさんをお借りしたい旨をLINEで送っている。
「いいけど、なんで?」
「お願いしたいことがあるんだ。あんまり人に話しづらいことなんだけど……」
「分かったよ。伝えとく。チャーミーは暇だからいつでもいいと思うよ。喜多の都合だけ教えてくれる?」
「ありがとー」
特に深掘りされることないので

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喜田明里の過去

喜田明里の過去

※喜多明里の独白のみです。

とある岬に来ていた。
父の骨を撒いた場所だ
父は海と空が好きだった。
亡くなった時は自然葬で処理してほしい。
生前、父が書き留めていたエンディングノートを読み、父の意思にしたがった。
亡くなった父に報告したいことがあって岬に来た。
「魔法」はあるのだと。

父は明るく朗らかな人だった。
母が不倫して、離婚して、家を出て行ってから変わってしまった。仕事も辞め、毎日酒浸り

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さやかな

さやかな

アイドルになったサヤちゃんがテレビで見れる。
そうチャーミーが言っていた。
「おい。チャーミー。本当にサヤちゃんが出るんだろうな?」
あるバラエティ番組に出るらしい。アイドルユニットが1つの曲を出すまでの過程を追う……どこかで見たような番組だ。
「うん。ほんとほんと」チャーミーのやる気のなさそうな返事。
「そういえば、なんでサヤちゃんがそのアイドル番組に出るって知っていたんだ?」
「え?俺が魔法使

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黒島羊の悩み

黒島羊の悩み

「羊ちゃん」僕を呼ぶ明るく響く女性の声。
振り向くとウェーブロングで、僕と同じくらいの背丈だから女性としては大きい方だろう。
彼女は切長の目をしている事もあり、気が強そうな印象を受ける。
「直接会うのは久しぶりだね。嬉しい」と屈託のない笑顔に、僕も微笑みを浮かべる。

白山洋とは幼馴染でずっと長いこといる。お互いの気持ちに気づいたのは中学くらいの頃で、高校は同じだったけどクラスが違い、大学はお互い

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サヤとチャーミー

サヤとチャーミー

「うちのバカが本当に申し訳ありませんでした」
羽が生えたちっちゃなおじさんが体に見合わないサイズの菓子折りを差し出しながら,私に頭を下げている。
「……えーと……あなたは?」
「大変失礼いたしました。私チャーミーと申しあげます。先日、奇妙な動きをしながら、奇妙な手紙を差し上げた者の……保護者みたいなものです」
「あー……あの……」それは覚えている。「ヒッ」と普段出さない声を出してしまったし、怖過ぎ

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魔法はいらない

魔法はいらない

「そういえば、君は僕の魔法を頼ろうとしたことはないんだよね。なんで?」
チャーミーが突然そんなことを聞いてきた。
周囲を誤魔化す為になんとなく登場させただけの死に設定なんだよなー。ゴツゴウシューギとか、ラミパスラミパス。ドウトデモナーレ。とか何となくそれっぽいことは書いたけど、それを前面に出したら、ドラ○もんみたいになるしなー……とメタい天の声が聞こえて……くるような気がした。
「そりゃ、胡散臭い

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連絡がこない理由

連絡がこない理由

試験期間中、野呂亮君がサヤちゃんのことを考えなかった訳でもない。
いきなり、
「チャーミー。サヤ分が欲しい」とぬかす。
「ごめん。ちょっと何言っているか分からない」
「人間に必要な4大要素。知らん?水分、鉄分、忘れた、サヤ分」
テキトーなこと言ってるのだけは分かった。

あのラブレターと称したLINEのIDを書いたメモ紙を渡したが、試験期間中もまったく連絡はこなかった。
「連絡が来ない……ってこと

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男女の友情(喜多明里の場合)

男女の友情(喜多明里の場合)

野呂亮くんの友だちでいらっしゃる女の子。
喜多明里さん……うん。なんか縁日に行きたくなる名前だな……とは言わないでおこう。
サイドポニーをフリフリ、大きな目をくりくりさせて、色々と質問や話題をコロコロ変える彼女に犬っぽさを感じさせる。
その子と2人きりになった。向こうが話すことが多いが、合間合間でこちらの様子を見るし、反応を待つ。どこかのんびりした口調に居心地の悪さは感じなかった。

「……それで

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黒島羊と喜多明里

黒島羊と喜多明里

ショッキングな書き出しをするが自殺してしまう方は雨の日より、雨上がりの晴れの日が多いとの説があるらしい。
それは自分の気分に寄り添うような雨ではなく、それを裏切るような天気になるから……というお話で。
まぁ、何が言いたいかっていうと……学生にとって試験期間は雷雨だ。間違いない。僕だけかもしれないけど。

大学に入って初めての試験期間。僕の通う応今(のうきん)大学らっせっせ文学学科もその試験期間を迎

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