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喜田明里の過去

※喜多明里の独白のみです。

とある岬に来ていた。
父の骨を撒いた場所だ
父は海と空が好きだった。
亡くなった時は自然葬で処理してほしい。
生前、父が書き留めていたエンディングノートを読み、父の意思にしたがった。
亡くなった父に報告したいことがあって岬に来た。
「魔法」はあるのだと。

父は明るく朗らかな人だった。
母が不倫して、離婚して、家を出て行ってから変わってしまった。仕事も辞め、毎日酒浸りになった。ありがちな話で笑えもしない。
私は当時中学生だった。一般的には潔癖で気難しい年齢かもしれない。そんな父に辛く当たることもあった。
父の残された居場所を奪ったのは私かもしれないと当時を振り返る。
やがて、父はとある新興宗教に入信する。
どこにも居場所がなかった父は一見優しそうな女性らに勧誘されたからだ。
心の隙間にスッと入られた人間は盲信していき、父は生活費すら、そこに寄付(教団は『喜捨』などと読んでいた)をするようになった。

その頃には父は扶養義務を果たせないと判断され、私は施設に預けられていた。
それでも、父への情はまだあった。私は定期的に父と会っていた。
いつも通り、会う日になり、父の家に行くと……倒れた椅子の上に、父が宙を浮いていた。

エンディングノートに書き置きが置いてあり、そこには母への恨み、宗教団体への感謝、私への謝罪が書かれていた。
そのような亡くなり方をした父の葬儀は周りから心ない言葉を耳にすることも多かった。
私も父を見捨てたようなものなので、親戚たちを責めることはできなかった。同類なのだと思った。
だんだんと父が堕ちていっているのに、手も差し伸べず、口だけの存在……それは彼らでもあり、私でもある。

ぶつけようのない怒りもあった。
その怒りは父の最後の選択を加速度的に高めることになった宗教団体に向けられた。
そもそもの原因を辿れば、母にあるのだが、きっと私の中でいない人になっていたから。
だが、小娘一人に何ができるだろう?
ネットで宗教団体の悪口を拡散しても虚しいだけだ。
出来ない願いに色々なものを諦めて、色々なものを捨てているような気持ちの時に
魔法が使える妖精と会った。聞くに、どんな状況も都合よく変えてしまう万能の魔法が使えるらしい。
そんな魔法があるなら、私の目的は一つだ。
その宗教団体リコピン教の存在をなくすことだ。

復讐は何も生まない。
そんなことは父も望んでいない。
そんな綺麗事はいらない。
私の気持ちは、私が決める。
この気持ちに決着をつけてから考える。
そうしなければ、私に明日は来ないからだ。

父さん、行ってきます。


2024年 文披31題 day15 岬

後書き
自分でもどうしてこうなった?ってくらい話が暗いですね。
喜多さんの人間不信の理由、チャーミーに興味津々だった理由です。
岬……恋人の聖地とか、刑事ドラマの船越さんとか出て来ましたが、一番暗いイメージを採用。

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