羊の思い出
洋にそういう気持ちになったのは
子どもの頃、一緒にお化け屋敷に入ったのが
きっかけだった。
「うーん。怖いの苦手だなー。嫌だなー」子どもの頃の洋。
「大丈夫だよ。僕がいるもん」そう強がる僕。
そう言いながら、僕もお化けは苦手。それでも、入ろうとした理由は、
お互いの母親同士の談笑で夜中1人でトイレに行けない話を洋の前でされて恥ずかしかったからだ。
それで強がりたかったのでお化け屋敷に入ろうと誘ったのだ。
もちろん、そう強がって強くなれるなら誰も苦労しないだろう。
入ると、足が生まれたての子鹿のようになり、声も震えていたと思う。
それでも、僕にはとっておきの作戦があった。
お化け屋敷は暗さや、音、いきなり出てくる演出で驚かす趣向が多いのを子どもなりに学習していた僕は目をギュッと閉じて、耳を塞いだ。
子どもの時分は一般的には女の子の方が早熟だ。僕と洋もご多分に漏れなかったようだ。
お化けが怖いといっても、ここはアトラクション。走って転んだりみたいなことがなければ、ある程度の安全は保証されている。
そんな場で強がって入ったくせに、「ぴえっ!」と変な声を出して、涙目になりながら、耳を塞ぎ、目を閉じる僕を見た洋の方が落ち着いてしまった。
「羊くん、目を閉じると危ないよー」といつもののんびりした声。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……」自分に言い聞かせているような様子だった。
「全然、大丈夫じゃないよ。手繋いであげるから頑張って行こ」と手を差し出す洋。
僕は素直に手を握った。少し安心したけど、それは片方耳から手を離してしまうことで。
少ししか聞こえなかった音が耳に侵入してくる。
「にゃーーー!」変な声がまた出た。
「まだ何もでてないよー」と苦笑する洋。
皆さん、忘れてはならない。これがまだ入り口であることを。
ぴきー!にー!出るのー!と一方的に僕の声が響く。それを見てクスクス笑うくらいに余裕がでてしまった洋。
その度に「大丈夫だよ」「怖くないよ」「泣かないで」と優しく声をかけられる。
とりあえず、無間地獄から無事に生還を果たした(と当時は感じられた)僕は洋の腕にしがみつきながら、顔を真っ赤にしながら「ありがとう……」と言っていた。
「うん。いいよ」と微笑む洋。
当時を思い出すと、枕に顔を埋めるのを止められない。普通逆じゃないか?逆じゃないか?
思い出の中の洋は王子様
その後、母親たちに連れられ、4人での食事。
格好つけるどころか、全くうまくいかずに
少ししょんぼり気味だった僕に洋が話しかける。
「頑張ったね。これ、あげる」
そう差し出して来たのは、青いストローで作った指輪。
「お揃いだよ」と自分の右手の中指にはめたピンクの指輪を見せてくる。
母親たちの談笑に飽きて、イタズラに作ったのだろう。洋は器用な方でよくこういうことをしていた。
ストローの指輪をはめて、ニコニコ笑う洋に胸がトクンとなった。
当時はその気持ちがなんだかわからなかったけれど、その時から僕の手は、洋の手を求めるようになった。
「羊くんが握ってくるから、お母さんや友達と遊ぶ時も自然と手を握っちゃうんだよね」とイタズラっぽく話した洋にかなわない気持ちになったのを覚えている。
時は流れて今に至るけど。その頃と気持ちは変わっていない。さすがに昔ほど会えなくてもどかしい気持ちにもなるけれど。
初めての大学の夏休みに入り、バイトに精を出しているのは洋との旅行や……ペアリングが欲しいのだ。あの時のストローの指輪のように。
2024 文披31題 day23 ストロー
後書き
羊と洋。正直、変換が大変なんですよ。ええ。
読んでいる方も時々「どっちだっけ?」って見間違えたりしません?
誰だよ!?こんなテキトーな駄洒落みたいな名前考えたやつ!
あ、ツッコミ待ちです♪( ´θ`)ノ
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