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忘れたくない失恋の話
中学、高校の6年間を懸けて、好きになった人がいる。
同じクラスの男の子。クラスでは何度か席替えがあって、毎回くじで決めるのだけれど、なぜか5回も6回も彼と隣同士が続いた。それで気づいたら、好きになっていた。
今はもう別の恋人がいるし、彼とは連絡も取っていない。だけどもしも中高時代をやり直すことがあるなら、きっと私はまた彼に恋をすると思う。
・・・
シャイだった私と彼の距離を縮めたのは、メールのやりとりだった。ガラケーのライトが緑に光ると、ディスプレイに表示された名前を見る。それが彼ならすぐに返信した。
話す内容は、今観ているテレビのことだったり、宿題のわからないところを教えてもらったり。好きな人の話、だったり。
中学2年のある日の夜、日付も変わりそうな時間。私たちは結構踏み込んだ話をした。
「好きな人いる?」「いるよ」
「え、誰?」「教えてくれたら言う」
そんなやりとりをして、結局彼が最初に好きな人を教えてくれた。
相手は私の友達で、同じクラスメイトの女の子だった。
「いいじゃん!応援する!」
さて、どうしようか。ちっとも綺麗なんかじゃない綺麗事を打ち込んだ親指で、その後どんな言葉を紡ぐのが正解なのか、わからなかった。
「えみは?」
案の定、彼が尋ねる。言えるわけないじゃん、こんなタイミングで。応援するなんて言っておいて、「あなたが好き」なんて。
渋る私に痺れを切らした彼が、「そろそろ眠いから教えて」と言ってくる。ええいもう、言っちゃえ。半ば投げやりな気持ちで、真実を告白した。
「同じクラスの、出席番号10番の人」
それから、少しスクロールしてこんな文をつけ足す。
「ごめん。本当に忘れてくれていいから。
これからも友達として仲良くしてくれる?」
質問というより、もはや懇願だった。だけど彼からの返信は、こなかった。
・・・
次の日の朝。ちょっぴり落胆した気持ちで学校へ向かう私に、彼からのメールが届いた。
「おはよ!ごめん昨日寝ちゃった」
そっか、無視されたわけじゃなかったんだ。よかった。少し嬉しくなりつつ、緊張したまま本文をスクロールする。私からの質問への答えは、なんて書いてあるだろう。
「うん」かな。それか「いいよ」か。さすがに嫌だとは言わないと思うけど...
どきどきしながら読んだ返事は、そのどちらでもなかった。
「もちろん」
もちろん。その四文字が何よりも嬉しかった。彼にとってはなんてことない返信だったかもしれないけれど、それは私の懇願を哀れんで言ってくれた社交辞令ではなく、彼の意思であるように思えたから。
よかった。彼とまた仲良くお話ができる。失恋したというのにそれだけで嬉しかったし、彼のこういうところを好きになったんだよなあってあらためて思った。
それから私たちは、本当にずっと友達だった。卒業するまで私はずっと彼のことが好きだったし、彼はその後別の女の子と付き合ったりもしたけれど、私たちは変わらず友達だった。
恋には往々にしてお別れがつきもので、別れ方によってその恋は忘れたい過去になったりもする。だけど私は、この恋を絶対に忘れたいなんて思わないし、彼を好きになったことも失恋したことさえも後悔しない。大切な過去として抱いていきたい。
「もちろん」
その言葉に、あの時の私は確かに救われた。きっと彼はもうそんなこと忘れているし、もしかしたら私の告白さえ忘れてしまっているかもしれない。それでも、あれから11年が経った今でも、私にとっては大切で忘れられない思い出だ。
リプトンとベースが好きな彼のこと 青春時代を懸けて愛した
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