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(15)頭もお腹も胸もいっぱいな父とアメリカ人

代官山 "Monsoon Cafe"で同級生達にマトさんを紹介した。みんな英語はワカラナイ。
確か1人、駅前じゃない本気のアメリカ留学経験者がいた。
言葉ワカラナイけどみんな身振り手振り、私のカタコト通訳と、留学経験者を交えての美味しい食事の時間。美味しいもの食べてるってだけでもう私は幸せなんだけど、何せ前夜にプ、プ、プ、プロポーズされて、ゆ、ゆ、ゆ、指輪まで貰ってますから、本当に結婚しちゃってダイジョウブかな?なんて気持ちに多少迷いはあっても、みんなには報告しちゃったんですよ。


もちろん、みんなはお祝いしてくれました。
その時、誰かが彼氏連れてきてて、1人だったか、2人だったか、男の子も数人いた気がするんです。
何せかれこれ20年近く前の話だから、記憶が曖昧な部分もありまして。。。あぁ、若かった、楽しかったあの頃。若いってだけで楽しかったよね、あの頃。


。。。っと、若い頃に気持ちが飛んじゃったけど、その時誰かが言ったんです。



『日本人は、結婚の許可を貰いに行くときはこう言うんだ。"娘さんをください"と』



そうなの、そう言うんだよ"ニホンジン"なら。
で、この彼の説明を私のカタコト通訳で伝えないといけないの。ややこしいけど、単語並べて、当時愛読書だった"英和▪和英辞典"も使ったようなそんな記憶。
何しろみんなのフォローもあって通訳したんだけど、そしたらみんながマトさんにゆっくり教えてくれたの。


"Musume San O Kudasai"


みんなほろ酔いだから、めちゃくちゃ盛り上がってローマ字で書いてくれちゃったり、ゆーっくりマトさんに言わせてみたり、やんややんやのちょっとしたお祭り騒ぎ(笑)


"ムスメサンヲー クダサーイ"


意味が分かってか分からずか、マトさんは何度か練習して、全然言えてなかった気もするけど、まぁ本人も楽しそうだし、まぁいっかということで、その日は楽しい代官山ナイト。



翌日はうちの両親が、


『せっかくハワイからはるばる来たマット君を食事に連れていく』


と言ってくれていたので、予めこの日の為に予約しておいてくれた父のオススメのお店に連れていってくれた。私、姉、両親+マトさん の5人。
"赤坂 •璃宮"という中華料理のお店だった。なぜオススメと言えば、当時父の同級生だったか先輩だったかが支配人をしているという理由。うちの父、日大•応援団出身。最近何かと話題の日大ですが、父は今でも応援団の繋がりを大事にしてます。私は日大出身じゃないけど、父が歌う"日大節"大好きです

赤坂•璃宮は普通に有名店だし、あの有名シェフの周さんが料理長だったお店。当時はもう周さんはいなかったけど、私、昔から料理番組大好きだったから、有名シェフが作る料理とか興味津々だった。24歳で若かったけど、あんまり若者っぽさがなかったんですね、私。渋谷とかで買い物してもつかれちゃうし、銀座でゆっくり母と食料品とか見て回る方が好きだった。
特に母と一緒に"料理の鉄人"を観る時間は大好きだった。


"私だったらこうして、ああして、あれ作って、これ作って"


という春美さんのシミュレーションを聞くのも好きだった。


『キッチンスタジアムで、好きな材料使って、予算も気にせず好きな物作ってみたいわー』


春美さんはいつもそう言いながら料理の鉄人をみてました。
多分春美さんの作る料理の方が、鉄人の料理よりも美味しいんじゃないか? 私はそう思ってた。
少なくとも、私にはそう思えると思う。そのくらい、うちのファミリーには"春美ごはんファン"がいっぱいいる。
一番のファンは"父"だと思うけど。
うちの父、日本人だけど何の躊躇もなく"お母さんが一番だ"と、母を誉めまくります。どこへ外食に行っても結局は


『お母さんのごはんのが美味しいな』


という感想で落ち着くっていう。
ごはんの作り手側になった今思うのは、一番美味しいのは妻の手料理でも、妻としてはたまには誰かが作ってくれた物も食べたいなっていうこと。春美さんも私も作ることは苦じゃない、むしろ好き。でも誰かが心を込めて作ってくれた料理をたまには食べたいんですよ。



私、話が料理になるとついアツくなるクセがあるのでだいぶ話が逸れたけど、美味しい中華料理のお時間です。


マトさんに"チャイニーズフード"を食べると言うことは伝えてあった。マトさんもチャイニーズフードは好きだという事だった。


お父さんは多分奮発して高いコース頼んでくれたと思う。
ちゃんとしたレストランだから、1品1品運ばれてくる。その度にマトさんにはちょいちょいそれが何かを説明しながら食べた。これは私の大好物の"冷製くらげ"だとかそんな説明。辞書によればくらげ=Jelly Fish。ふんふん、と頷くマトさん。

次に出てきたのは"ハチノス"の料理。イタリアンで言ったら"トリッパ"です。これも料理の鉄人で覚えた知識(笑) でも英語はなんて言うのかな。辞書開く前に自分の知ってる単語で説明してみた。



"This is Cow Stomach" (牛のお腹)


この説明聞いて、マトさんおったまげーーー!
なんかびっくりして、1口食べて終わっちゃった。
聞かなければもっと食べられた、そう言ってました。
あぁ、そういう物かな。言わなきゃ良かった(笑)


両親といるからなのか、慣れない料理の為か、はたまた私が"Cow Stomach"って言っちゃったからか、やや緊張気味に見えたマトさん。ちょっとお手洗いに行ってくると言って席を立ったままなかなか戻って来ない。


『ちょっと様子見てきてあげなさいよ』


春美さんが私に言った。ってか私男子トイレ入れないけどなーって思いながら席を立って、お手洗いに向かった。そしたらちょうどマトさんが出てきた。


"Are you Ok?(大丈夫?)"



って聞いたら、



"I'm Ok"


そう言った。
でもなんか汗かいてるなーって思って、これはもしや私の"Cow Stomach 発言"が原因ではないかとうっすら思った。


マトさんは席に戻ったし、私もついでだからお手洗いに行ってから席に戻ることにした。



私が席に戻ったら、テーブルで4人がざわっとしてる。
お父さんがびっくりした顔でマトさんに何か聞いてた。100%日本語で、質問してた。テーブルに近づいてみたらお父さんがこう言った。



『今、娘さんをくださいって言った...!?』



えっ?




えっ??




えええぇぇぇーーーー!!



って、父、母、姉のドヨメキ。
そして私もドヨメキに参加。
その後の3人の困ったような嬉しいようなあの表情を私はハッキリ覚えてる。
慌てる3人をよそに、マトさんは私に言いました。


『Will You Marry Me?』



えっと、みんな動揺して私以外誰もみてないし、聞いてないし、私もう既に1度聞かれてるけど、もう一度言いました。



『Yes』



マトさん、Cow Stomachで気持ち悪くなっちゃってトイレに籠ってからの


"ムスメサンヲ クダサーイ"


本人なりにタイミング見てたようです。
後で聞いた話によれば、

•トイレでは前夜にもらったメモを見ながら、"ムスメサンヲ クダサイ"の練習をずっとしてたけど、うまく行かなくて時間かかった。

•その日はずっと"ムスメサンヲ クダサイ"のタイミングを考えてて、1日中緊張してた。

•そこへ来ての"Cow Stomach"は聞かなければ、少し助かったかも。


だそうです。


誰も聞いてなかった2度目のプロポーズでしたが、私も2度目だから慣れたもんで、さらっとYes。

お父さんもお母さんも駅前留学のかおちゃんも、マトさんからニホンゴが出てくるって全く予想してなかったから、最初英語だと思って一生懸命聞いてたみたい。でも良く聞いたら"ムスメサンヲ クダサイ"。


英語だと思ってたら、日本語も英語に聞こえちゃうもんですね。英語も日本語に聞こえたりしますもんね。私はかおちゃんと春美さんと空耳アワーを良く一緒にみてました(笑)


お父さんもお母さんも


『お前がそれでいいなら良い。娘が選んだ人だから、信じる』



いつものその言葉でムスメと結婚する事を許可してくれました。


私はその日はマトさんとお泊まりさせて貰って、両親と姉とは別の道を帰りました。



みんなと一緒に帰りたいけど、マトさん置いてきぼりに出来ない。これからはこういう風になるんだな。
結婚って、こういう感じなんだなって思ったら、なんかすごく寂しくてちょっとまた不安になった。



きっと、お父さんは家に帰って'春美さんが作る何かで本日の〆をしたんじゃないかなって想像してます。



"お母さんのごはんのが美味しい"



ただでさえ、外食の後はそう言って軽くごはんを食べる事が多い父。多分あの日は胸と頭がいっぱいで、途中から食事なんて味しなかったんじゃないかな(笑)


ちょっと味の濃いめの春美さんの味を食べて、落ち着き取り戻したかなーっと思ったりしております。


両親の許可も貰って、晴れて正式に婚約となりましたが、"このまま結婚して大丈夫なのか?"という不安はやっぱりまだ持っていた。でも母の一言を聞いて、何となくその思いは晴れます。


それはまた、次の話。


《今日のヒトサラ》

•エビチリ

"ムスメサンヲ クダサイ事件"で何食べたかの記憶が薄れておりますが、きっと"赤坂•離宮"でも食べたんじゃないかと思われるエビチリ。父の好物。春美さんの横でお手伝いしてたから私もエビチリ作れるし、エビチリ作ると、母を手伝った時間を思い出します。

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エッセイに登場する”出演者”である家族に”出演料”として温泉旅行をプレゼントするのが目標です。イッテQ!の温泉同好会の様な宴会をすべく、各自芸を磨いて待機中との事ですので、サポートしていただければ幸いです。スキ、シェアだけでもすごくうれしいです。よろしくお願いしますm(‐‐)m