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もしもし

「もしもし」

君への思いを伝えた。付き合って4ヶ月だろうか。

最近君の態度が違って見えた。僕は柄にも無く、情けない声で君に尋ねたのだ。

「まだ俺のことを好きでいてくれますか」

と。

君と初めて会った日も、何がきっかけで好きになったのかも
あまり覚えてはいない。
何度も思い返そうと、写真フォルダを見返すのだが、
見つかるのは鮮明に覚えている記憶のみである。
そしてそのどの写真を見ても、君の顔は曇っていた。

君は写真が嫌いだった。
写真を撮るのは好きなくせに、自分が映ることをひどく嫌がる。
どの写真を見ても、顔に皺が寄ってたり、姿が捕らえられていなかったり、変な顔をしていたり。
そんな君がたまらなく愛おしかった。たまらなく愛おしい。
君から送られていた僕の写真は
まるでこれ以上何もいらないくらいの笑顔をしていた。

初めて二人で訪れたカフェ。
恐らく君が勧めてくれたところだろう。
少し薄くらい店内はとても落ち着いていて、心安らぐ音楽も流れていた。
鼻に香る柔らかいコーヒー豆の向こう側に、君がいた。
美しかった。綺麗だった。
いつにも増して。

初めて君と行った動物園。
カップルが大勢に訪れているとは信じ難いくらい臭いがきつかった。
ただ君はとても楽しそうだった。
僕はそれだけで良かった。
それだけで。

ありきたりを特別に変えてくれた君へ、ありがとうと伝えてみたい。
当たり前な言葉を、素直に伝えてみたい。
伝えられていなかったのかな。

初めて電話した日を君は覚えているだろうか。
残念ながら僕は覚えていない。
何を話したのかもあまり記憶に無い。
ただ。
初めて君が電話に出たあの瞬間を僕は忘れない。
きっと忘れない。これからも。

「もしもし」

またあの頃とよく似た君の声を聞くことはできるだろうか。
いやまだ聞きたくは無い。

もう少しだけ君と
恋人の関係でいてみたいから。

まだ、答えはいらないよ。

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