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秘匿の道筋 #毎日ネタ出し12日目

【タイトル】

秘匿の道筋

【あらすじ】

タクシードライバーとは、時に週刊誌よりも多くの情報を持っている。

田中健次郎は勤続40年を超えるベテランタクシードライバーだった。間もなく定年を迎え、今まで貯めた貯蓄と年金で老後はゆっくりと過ごす。そう決めて残りのタクシードライバー生活を事故のないよう安全運転を心掛けていた。

ある夜、幹線道路を走っていると一人の男が道沿いで手を上げているのが目に入る。田中はゆっくりと減速し男へと近づく。

男の風貌はいたって普通。スーツ姿に小さなかばんを持っていた。

路肩に車を止め、ドアを開ける。そして、その男はタクシーへと乗り込んできた。

「どこまで行きましょうか」

田中は男へと行先を訊ねる。その男はしばらく沈黙し、

「……この道をしばらく真っすぐ行ってください。私が止めてくださいと言うまで、走り続けてください」

と言った。

「は、はぁ。かしこまりました」

田中は「変な客だな」と思いつつ、発進する。

車を走らせること数十分。一向に男は「止めて」と言わない。

「あ、あのぉ……。まだ走らせますか?」

田中は恐る恐る男へと問いかけた。

「……そうですね。ではこの辺で止めてください」

男は静かにそう答えると、料金を精算し、そのまま降りていった。

「……変な客だったなぁ。ま、人それぞれ事情もあるか」

田中はそう思いながら再び車を走らせる。その日は結局その男が最後の客となった。会社へと戻り、車内を掃除する。すると、後部座席にかばんが落ちていた。

あの男が持っていたかばんだ。

田中はすぐにそう思った。

「あのお客さんの忘れ物かぁ。……変な男だったな。一体何の仕事をしとるんだろうな」

田中はあの不思議な男に興味が出てきてしまう。そして、周りを見渡し誰もいないことを確認すると、男のかばんを開け、中身を確認する。

しかし、中には大したものは入っていなかった。ハンカチやら目薬やら筆箱など至って普通の持ち物だ。

「なんだぁ。つまらんな」

何か変なものが入っていないか少しだけ期待していた田中は拍子抜けするとともに少し安堵した。

かばんを元に戻そうとしたとき、折りたたんである紙をかばんの隅に見つけた。

「なんだぁ?」

その紙を取り出し広げてみると、その紙にはたくさんの名前が記載されていた。

「……何かの名簿か? まあ、これも大したもんじゃなさそうだな」

と紙を眺めていたとき、

「田中さん、後部座席で何やってるんですか?」

と同僚から声をかけられる。驚いた田中はその紙を落としてしまう。

「い、いやぁ。最後に乗せた客が忘れ物をしていたみたいでね。ハハハ……」

田中はそう誤魔化し、こそっとかばんのチャックを閉める。紙を落としてしまったことにも気づかずに。

この一枚の紙が田中の運命を大きく変えることになるとは、この時田中は全く思いもしなかった。


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