イール

散文(ほんとうに散らかっている)

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青春へのレクイエム

 いつしか彼を好きになっていた。    彼は少し遠いところを見ていた気がした。彼は俗と交わることを拒んでいる気がした。彼の目には真実が見えている気がした。  彼はいつもぼんやりとしていて、何かを考えているような顔をしていた。その横顔はたまらなく美しい。いまや彼の横顔を思い出せないが、彼の美しさ、彼を感じていた心は、まだわたしの中にある。  もっとも、彼は何も考えていなかった。それを知ったのは、ずっと後になる。もはや2度と会わないと決まった、つい3日前のことである。彼の顔は

    • なつがはじまる

       夏が来た。つくばの夏は、湿っていて、とても蒸し暑い。都市全体がサウナのような感じだ。  7月に入り、暑さに耐えかねて、ようやくエアコンの電源をオンにした。文明の利器がもたらした快は凄まじく、たちまちわたしはエアコンの虜になった。  就活を始めた。それもまだ、お試し程度ではある。当然、すべて、エントリーシートで落とされた。添削もしてもらったのに……  うつ病はほぼ完全に治った。薬を飲み、人と会い、ご飯を食べる。人間として当然の営みが戻りつつある。  夏なので海に来た。大洗はい

      • つまらない、人間

         要するに、今月も金がない。それで、友人に紹介されたキャバクラ黒服の求人に申し込んだ。すぐに採用されたのだが、問題はここからであった。恋人が烈火の如く怒り始めた。  裁判の結果、わたしには有罪判決が下り、キャバクラの黒服はやめた。  その旨を性懲りも無くペラペラと友人相手に喋りまくっていたのだが、開口一番に言われたのが、「お前、つまんなくなったな。」という一言であった。  確かにわたしは、つまらない人間になった。  今までと今を比較してみる。今までは、SNSで人を誹謗

        • 裏切りと弁明

           わたしの為した罪は、確かに君たちにとっては裏切りだった。許してほしい。それでも、もう後には戻れなかった。わたしという個体は、新たなる段階へと達しつつあった。  真実を知られた時、轢死を希うほどに非難されることは、よく理解している。  それでも、書くしかなかった。書かざるを得なかった。この罪、憎い身体、悍ましい欲望、抜け出せないとしても。  あなたはまだ、単なるひとりの人間でしかなかった。今でも、そうかもしれない。揺れ動く心の中に、あなたは確固として存在する。紆余曲折を

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        青春へのレクイエム

          賞罰欄

           すっかり忘れてしまっていたのだが、わたしは罪人だ。他人の気に入らない部分を見つけては誹謗中傷を繰り返した。それなりに生きてきたはずの人間とは思えないほど、わたしは幼かった。  どうかこの短編は、わたしの諸作品と一緒に読まれてほしい。その方が、隠された欺瞞に気がつけるだろうから。  大学に入ったわたしは、それまでと同じようにTwitterを始めた。そこにはもう、あまりにも痛々しい大学生が、落ち葉のようにたくさんいて、腐り切っていた。それで、つい口が滑ってしまった。滑った口

          #イールの千字百本ノック 52日目 憂鬱な新学期

           新学期が始まる。  勝負の3年次へと突入する。  ひどく憂鬱だ。つくば市はあいも変わらずのどんよりとした天気で、気は塞ぐばかりである。  それでもなんとか履修登録を開始した。頭を絞って30単位分の履修を組んだ。あと10単位、何を学ぼうか。それさえもとっても退屈で、もう何も考えられそうにない。  希死念慮が頭を過ぎる。それも、過去のようなはっきりとしたディテールを伴って。それでも、薬のおかげで、生きたい、死にたくないとも思う。なんとも、矛盾した感情だ。  例によって

          #イールの千字百本ノック 52日目 憂鬱な新学期

          #イールの千字百本ノック 51日目 ローソン万歳!

           このなんの変哲もないローソンは、わたしにとって、きっと、一生忘れられない場所になる。  親元を離れ、初めてのひとり暮らし。その頃住んでいた大学のシェアハウス。その近くには100円ローソンがあった。  わたしはその頃ひどいうつ病を患っていた。街が寝静まった深夜に、何日も着まわしたパジャマを背負って、100ローへと向かう。100円のクリームパンと、100円のメロンソーダを買って、それで1日の食事を済ませる。当然、体重は落ちる一方で、48kgしかない時もあった。今はというと、

          #イールの千字百本ノック 51日目 ローソン万歳!

          ある友の訪問

           わたしは親元を離れ、茨城にある大学に進学した。わたしには、友達がいなかった。  正確には、いた。が、そこまで濃密な付き合いでもなかったのだ。  大学に入ってからできた、数えきれないほどの友人たちは、わたしの力となってくれた。  Twitterというツールは本当に有害で、どうしようもなく時間を奪ってくる。しかしそれは一方で、濃密な関係性を生み、それはやがて現実へと還元されていった。そうして、わたしの人生では久しぶりの「親友」ができたのであった。  親友、ここでは彼と呼

          ある友の訪問

          意味のない街、意味のないわたし

           つくば市は意味のない街である。いや、わたしのような人間では意味の見出せない街である。いま、その街をようやく飛び出した。友人たちとのスキー旅行へと向かう道中で、あまりにも暇なので、なにかひとつ書いてやろうと思い、noteを開いたわけである。  2年の終わりにもなって、適当なレポートを書き殴って、その場しのぎのやっつけ仕事で流す癖が抜けない。当然、学業からは拒絶を賜る日々である。いや、わたしが拒絶していると言ったほうが正しいか。  こんな調子であるから、コース配属に失敗した

          意味のない街、意味のないわたし

          fripSide 20th Anniversary Festival 2023 -All Phases Assembled- supported by animelo 感想記事

           この記事は、fripSideのライブに1回も参加したことがなく、2期3期さえもろくに追わず、ただ、1期が、それも大して聴けていない、でもfripSideが大好きで仕方がない初心者のオタクが、ライブを振り返りながら書きます。そのため、大いに不正確な点がありますが、ご了承ください。  わたしは、fripSideが大好きだ。とくに、spiral of despair,save me again,hurting heart,Red -reduction division-,bef

          fripSide 20th Anniversary Festival 2023 -All Phases Assembled- supported by animelo 感想記事

          成人式、人生の答え合わせ

           結論から言うと、わたしは成人式にも同窓会にも出席しない。言い訳を少ししておくならば、とても重要なライブがあるからである。しかし、それは本当に言い訳でしかない。なくても行ったのか?と指摘されると、胸が苦しくなる。  散々言われているように、この種のイベントは、単なる人生の答え合わせでしかない。行きたくなるような人生を送った勝者と、行きなくないような人生を送った敗者。ただそのふたつがあるだけである。そして、わたしは敗者であった。  行かなかったことは、正解だと思う。だって、

          成人式、人生の答え合わせ

          帰省をめぐる想いと、何か恐怖のようなもの

           そう、久しぶりに「家」に帰ったら、そこがふるさとになっていると気がついたのだが、同時にそこは住む場所ではなく、郷愁を感じる場所になってしまっているとも思ったのであった。  精神座標が、天久保に固定されてしまっていた。  祝ってもらいたいがために帰省した。もちろん、その目的は完遂され、あたたかい空気の中で、わたしの成人は祝われた。祝ってもらうだけなら、天久保にいる友人たちでいいものを、どうして家族に祝ってほしいと思ったのだろうか。たぶん、血のつながりを求めていたからなのか

          帰省をめぐる想いと、何か恐怖のようなもの

          人生の総括(20歳を迎えること)

           わたしのこの小さすぎる身体に、いよいよ20年という時が刻まれてしまう。20年。長くもあり、短くもある年月である。しかしながら、歴史の教科書で例えてみるならば、この時間は、少なくとも数ページ分にわたる記述を生み出す。そのような時間が、わたしの中で経過しているということ。重くのしかかる現実である。  この原稿は、弾丸帰省を仕込んでいる帰途、その最中に書き記している。  18年間は広島で過ごし、2年間は茨城県で過ごした。18年は長く陳腐なものであったが、2年間はひどく刺激的で

          人生の総括(20歳を迎えること)

          あいつらが簡単に口にする100回の「愛してる」よりも大学ノート50ページに渡ってあの娘の名前を書いてた方が僕にとっては価値があるのさ

          でもね、口にした方が勝ちなんだよ。

          あいつらが簡単に口にする100回の「愛してる」よりも大学ノート50ページに渡ってあの娘の名前を書いてた方が僕にとっては価値があるのさ

          予感と讃歌(早く寝たいです)

           早く寝たい。寝たいから、意味のないものを綴る。  秋学期の鬼門はたいてい11月である。10月はなんとかなるのである。だが、11月になると、全てが壊れてくる。  現状、親友たち、それも非常に親しい友人たちとの相互扶助はうまくいっている。これは友情の乏しかったわたしにとって、大学で初めて掴んだ感覚だった。「迷惑をかけてもいい」と思える他人、しかしそれは粗雑に扱っているわけではないという奇妙な感覚は、心地が良い。  われわれの連帯が傷の舐め合いであるとか、ホモ・ソーシャルで

          予感と讃歌(早く寝たいです)

          恋・愛・論

           意味のない話であると思う。  そもそも、わたしの「恋愛」というものは、誰かのことを追いかける営みである。追いかけているうちに、人間が、かみさまになる。偶像、アイドルになってしまうのである。  ところで、かみさまの話は、なるべくしないほうがいいらしい。わたしはかみさまのはなしが好きなのだ。かみさまをまだ好きであるから、である。  まだ好きというのは正確には嘘である。というのも、「いつかの夏、あなたと見た幻影」で、はっきりと、感情を清算したのだ。もうなにも、心残りはない。

          恋・愛・論