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人生の総括(20歳を迎えること)

 わたしのこの小さすぎる身体に、いよいよ20年という時が刻まれてしまう。20年。長くもあり、短くもある年月である。しかしながら、歴史の教科書で例えてみるならば、この時間は、少なくとも数ページ分にわたる記述を生み出す。そのような時間が、わたしの中で経過しているということ。重くのしかかる現実である。

 この原稿は、弾丸帰省を仕込んでいる帰途、その最中に書き記している。

 18年間は広島で過ごし、2年間は茨城県で過ごした。18年は長く陳腐なものであったが、2年間はひどく刺激的で、それでいてわたしを堕落させた。ネガティブな堕落でもあり、ポジティブな堕落でもあった。良くも悪くもわたしという人間を根本から完全に壊してくれた。茨城県つくば市、これは恐ろしい街である。

 変な遊びを覚え、真の友情に触れた。一方で、あれほどまでに望み願った学術は、わたしの前から簡単に消え失せてしまった。それは呆気のない結末であった。自由はわたしに彩りをくれ、それと共に意欲を奪った。

 東京に何度行けども、東京の楽しみ方がわからない。要するに、わたしはしがない田舎者であった。それで、東京に行くことはやめた。すべてをつくば市で済ませるようになった。つくば市もまた、なかなか悪くない街であった。しかし、生気を奪われる街でもあった。この街には、どことなく苦しみの霧が漂っていて、それは雨の日も晴れの日も消えることがなかった。

 大学に入り、全てが弾けた。ここでは書けないような悪事をたくさん犯した。日々を無駄にした。単位も山のように落とした。親不孝者の息子である。それでも時間は経っていった。すると、2年生が終わりつつあった。すぐに3年4年と経ち、気がつけば卒業である。もっとも、卒業できるかは知らないけど。

 大学は間違いなく、学問の場である。しかしわたしにとって大学は、人格涵養の場であった。なるほど、わたしは大学に入って人間的に成長した。それでも、肝心の学術に関しては、何も知らないままである。何かを勉強したいわけでもない。一体、何を忘れてしまったのだろうか。

 授業がつまらない。受業だからつまらない。いつまで経っても、講義は授業のままだった。それでも、ごくまれにわたしの興味関心を引いてくれる講義があって、それには熱心に参加していた。落ちるところまで落ちてしまった。落ちて新しく生まれ変わることもないのに。

 もっぱら日々を、コンビニで駄弁ることだけで消費している。この毛繕いが、おもしろくて仕方がない。これがためにわたしが成長できないことは、わたし自身が一番よく理解している。友人を責めるわけではもちろんない。ただ、我が身の怠惰を恨むのみである。

 寝て起きて寝て起きてを繰り返していたら、いつのまにか1ヶ月、半年、1年、2年が経つ。とてもではないが、この速さに、耐えられない。

 なぜか実家に帰りたくなった。つくばに慣れすぎた体を、リセットしたくなったのだ。それで、終電の新幹線を目指して、下宿を飛び出た。

 もちろんつくばにいても友人たちが祝ってくれるだろう。おそらく。でも、そんな時、家族の愛?とかいう、訳のわからないものを、少しだけ感じたくなった。ずっと嫌い尽くしだったはずの実家は、いつしかふるさとになっていた。

 全てが美化されていく。過ぎ去ったものはすでに過去でしかない。あれほど嫌悪していた父親も、関わりさえ持ちたくないと思っていた母親も、お父さんになったし、お母さんになった。

 いろいろなこと、厳しいも優しいも、軽いも重いも、全てのことが一緒くたになって、美しくなっていく。それはまるで、ブラック企業で働き詰めになっている社畜たちの光と、ボコボコに殴られて泣き叫ぶ闇を、一緒に流してみる、新幹線の車窓のようだった。これはひどく感傷的な比喩なのだが、過ぎ去る光(これは闇でもある)が美しいのは、多分こういう理由なのだと思う。

 意味のない例えである。やけにセンチメンタルな気分になる。

 20歳になると、やってもいいことが増えるらしい。例えばお酒やタバコが公然と許可される。その一方で、わたしを守っていた、それでいて束縛してきていた少年法などといったものは消え失せてしまう。一切合切がわたしの手に委ねられた。これが大人になるということらしい。わたしにはまだ、重すぎる荷物である。はやく、責任を知り、真の自由に到達したい。

 人生をそろそろ決めなければならなくなる。何に生き、何に生きないかを決める日がやってくる。その日は今日でもあり、明日でもあり、明後日でもある。その審判の日、わたしは正しい判断を下せるだろうか。それはまだわからない。でも、きっと間違ったっていいはずだ。ただし、その責任を己の手で背負う限りにおいてだが。

 こんなことを考えているうちに、ラスト・ティーンの一日が終焉を迎えていく。

 ああ、早くタバコが吸ってみたい。そんなことを思いついた。どんな味がするんだろう?(2024字)

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