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ライカを持って旅に出たい…のだけれど。

 

旅に出たい欲求というのは定期的に沸々とわいてきて、その度にあそこに行ってみたい、ここもいいかもしれないと妄想だけが膨らむが、実は純粋に撮影のための旅に出たということは一度もなくて、それは例えば家族旅行だとか、仕事とか、学生時代の仲間に会うためとか、そんなある種の「きちんとした理由」に乗っかって、カメラを持ってそのイベントの隙間に自分の撮影時間を設ける、というのが主であるから、それこそ写真を始めたころから、純粋に撮影のために旅に出るという憧れはいつまでも形にならないまま、ふだんも何か絶景だとか、イベントだとかに足繁く通うわけでもなく、メインは近所をダラダラと撮り歩く日々だったりする。



 ただ、そんなきちんとした理由のなかで出かけた先で、これはいいぞっ!となる写真を撮れたことはけっこう少ない。それよりはその、ダラダラと撮り歩いた日常の散歩とか、そこから少し毛の生えたくらいの遠出とかで撮ったものの方が、つまり、その場のことを少なからず分かっているところの方が、それなりにいいものが撮れている、ということが多いような気がして、今回、写真展に出した写真も、結局はそう言うものばかりになってしまった、と言うことを、展示した写真の説明する用紙を作るときに、「自宅付近」と記述した回数の多さで気付かされてしまった。県外で撮った写真は16枚中2枚。市外は数枚あれど、それらにしても市境で撮影されたものが多い。

 飽きてしまったとしても、つまらないと感じても、やはり同じところをぐるぐる回っていた方がいいもんだなあと思ってしまうわけだが、写真を趣味として撮る上では、旅に出て、知らない街をスナップする、その時の出合いに対するワクワク感だとか、迷子になりながら撮り歩くその迷路感だとか、それは子供の頃に近所であってもよく分からない場所に入り込み、それでもずんずん歩いてみれば、はたと知った道に出るという、あのときの感情に似ていたりして、楽しむという点においてはやはり撮影ありきの旅というのはいいもんだな、と思うものの、それで撮ってきた写真がいまいちうまく撮れてないなあと感じるのは、旅に浮かれて何も考えずにシャッターを切ったから、と言うことなのかもしれない。

 そんな折に、地元の写真における御大とお話することがあって、彼は僕の感想とは全く逆のことをおっしゃっていた。やはり遠出した時の方がいい写真が撮れるのだと言う。
 それは彼の写真のメインが風景であることも一因なのだろう、きちんと目的地を定めて、そこに向かい、その場の良いポイントを見出して撮る、そんなふうにやるのなら、そりゃ確かに地元周辺の見慣れた景色よりは遠い場所の風景とかイベントを撮った方がいいものが得られそうだとは思うのだけど、それにしても僕が思うに、彼ならそのご近所写真にしてもきっといいものを撮ってきそうな気がする。つまりは練度の違いなのだ、と思うわけだ。

 僕自身19年間カメラを触ってきてはいるが、じゃあそれでスキルが上がっているかと問われれば、それは自信を持ってうんとは言えないところがあり、その分を足で稼いでいるのではないかと思う。スナップの醍醐味でもある出会いを切り取る行為を、普段歩いていて新鮮味がない場所だからこそ、そこに起きる変化をきちんと見分けられることによってシャッターを切っているだけで、だから知らない街にでかければ、全てが変化変化変化、真新しいものばかりだから、つい何にでもシャッターを切りたくなり、結果、帰ってから見返すと、なんの変哲もないまのを撮って来たことに気づいて、「またつまらぬものを切ってしまった」などと呟いてしまうのだろう。

 この街を何度も何度もなぞって行くうちに、そこで身についたものが知らない場所でもうまく発揮されればいいのだが、そううまくはいかないようだ。

 だから、旅に出たい、写真ありきの旅に出たいとは思うが、実際旅に出て、なんの収穫もなかった、なんてことにもなるのではないか、と思ってしまう。ライカを手にしたのがコロナ禍だったから、それを持って出張なり旅行なりに出かけたことはまだ数度しかないのだけど(それでも妻の旅好き故に多い方だとは思う)、せっかくのスナップカメラなんだから、街に出て撮りたい、面白いものはより面白く、つまらないものも面白く、と考えるばかり考えて、その気持ちが強まる故に撮れたものの陳腐さにガッカリする自分を想像してしまうのかもしれない。

  だが、それでもライカを持って旅に出たいのだ。
 自分がそうしている様子を想像するとき、それはとても楽しく、意義のある行為のように思えてくる。街並みを、海沿いを、木々を、人々を、ちゃんと見つめて、構図のなかに収めようとする。旅とライカ、いいじゃないか。それで何かいいものが撮れなくても、豊穣の時間は味わえると信じているから。

 写真は、旅先の写真。日帰りもあるけれど、いや、ほんと、カメラ2台とレンズ4本(カメラ一台、レンズ一本と言い切れないのが自分の悪いところ。だが、この量が、僕の街をウロウロできる最大の重さだ。)知らない街をひたすら抱えて撮り歩きしたいものだ。
 基本は50mm。それに合わせて28mmか90mmを場に応じてつけて、撮り歩き、時々75mmに50mmを入れ替えてみたり、と言うのが最近の組み合わせなのだけれど、この感じがなかなかいいなと思いつつ、ここ最近は35mmをつけて朝を散歩してみたりすると、長年親しんだ焦点距離だからか、ライカにして50mm と比して使いづらいなと思っていたはずなのに、なかなかいいじゃん、と思い始めている。流石に軽いとはいえレンズ5本はキッツイな。でも、なかなか撮影のためだけに旅に出かける勇気のない僕は、そんな妄想をしているときが、とても楽しいというだけの日々を、ただただ、費やしているのだ。

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