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波穂子

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昨年の夏に書いた小説です。
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記事一覧

波穂子⑪(最終話)

 「久しぶりですね」返事はなかった。吐いた息の冷たい匂いがした。  靴箱にかけてあった雑…

春央
1年前

波穂子⑩

 福田家とは宿の名である。宿は川沿いにひとり建っている。杉の木立に、まるで隠されるように…

春央
1年前

波穂子⑨

 「初めて食べるわ、これ」母は一口齧ったどら焼きを番茶を注いだマグカップと一緒に盆に載せ…

春央
1年前

波穂子⑧

 少し熱があるみたいだ。藍はうなじに手をあて、その掌にくらべていくらか冷たいのに快さを覚…

春央
1年前

波穂子⑦

 波穂子の家は丸山の麓にあって、最寄りの伊東駅までは緩やかな坂を下る。トンネル近くの踏切…

春央
1年前

波穂子⑥

 藍は、瓶に映った異形の顔を覗き込んだ。ふと緩んだ表情がそのまま崩れて涙があふれる。おね…

春央
1年前

波穂子⑤

 …担当は、主任の大久保ではなかったろうか。素早く目次に戻り他の題を目でさらうと、たしかに彼で間違いなかった。夏休みに入るところでクラスには報せずに産休を取った山崎先生に代わったのだ――一度引き上げた記憶は鈴なりに他の記憶の枝までも揺さぶる。そう、大久保は、この末尾にまつわる改稿の問題について指摘をした後、「続きを書く」というワークから飛翔して、「身の回りの物語の続きを創造して書いてみましょう」と明らかに鼻の穴を膨らませて、そう宿題を課したのだ。波穂子の頭には、狭い教室とその

波穂子④

二  冷夏は過ぎようとしていた。薄く開いた目が、窓越しにそれを知った。枕に頭をつけたまま…

春央
1年前

波穂子③

 その晩、久しぶりに実家に帰った波穂子は、早々にシャワーを済ませると二階に上がった。髪を…

春央
1年前

波穂子②

『――魂がはじめて生まれるのは、とスティーヴンはぼんやりとした口調で言った。僕が君に話し…

春央
1年前

波穂子①

一  「どう?」サイドレバーを引いた母の手が、食指に窓の外の空を指す。波穂子は助手席の…

春央
1年前

「波穂子」について 

 丁度一年前に、「波穂子」という小説を書きました。伊豆に舞台を置いた、ひと夏の話です。「…

春央
1年前