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欧州: クルマ排出ガス規制Euro7

2023年末に暫定合意に至ったEU次期排出ガス規制Euro7。EU市場で販売される新車からの大気汚染物質排出を規制する同法は、今後欧州議会&EU理事会正式承認を経て、官報発行予定。欧州委員会提案に比べ、最終合意内容がかなり緩和された稀なケース。その概要を整理した。

記事要約

  • 有害な排ガスとして規制対象となっている物質は、車両から発生するCO, HC, NOx, PM(エンジン走行時や停車時のシミだしなど)。

  • 2022年、欧州委員会が現行排ガス規定Euro6の改定案Euro 7案を公表、2023年に欧州議会&EU理事会が暫定合意。

  • 当初案からはかなり緩和された内容。業界ロビーというよりか、EU加盟国の足元の経済状況などが影響したのではないかと思われる。




1. 車両から排出される大気汚染物質

ディーゼルやガソリンを燃焼爆発させピストンを動かして動力に変える内燃機関/Internal Combustion Engines(ICE)車両、燃料の燃焼時に様々な物質を排ガスとしてテールパイプから吐き出す。

(出典:Ancar Channel)

有害な排ガスとして規制対象となっている物質はいくつかある。燃料リッチ(過多)による酸素不足不完全燃焼時に発生する一酸化炭素/CO、燃料リッチ時およびリーン・バーン時で燃料が燃え切らない時に発生する炭化水素/HC、高温高圧の燃焼時にN2が酸化して発生する窒素酸化物/NOx が代表的(他にも温暖化効果ガスの二酸化炭素/CO2亜酸化窒素/N2Oメタン/CH4も排出されるが、CO2は他の規制対象)。

ガソリン車両の排ガス
ガソリン車両の排ガス(出典:Cliccar.com HP

ディーゼル車の場合、特に問題となるのが上述のNOxおよび微粒子状物質/Particular Matter(PM)。高温燃焼のディーゼル車両の場合、燃焼温度が1800Kを超え指数関数的にNOx生成量は増加する。PMはリッチバーン(燃料>酸素)時や後燃え期間中に多く生成(詳細はこちら)。PMは美粒子状物質の総称で、詳細は下記の図。

PM成分
PM成分(出典:NE-Chemcat HP

世界的に排ガス規制が施行され、各自動車メーカーも法規対策を実施、その過程で、ガソリン車には三元触媒(一酸化炭素CO、窒素感化物NOx、炭化水素HCを酸化・還元反応によって除去)、ディーゼル車にはDPFフィルター(ディーゼルのPM対応)など、最近では尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)システム(NOx対応)などを車両に積み込み、排ガス対策をしてきている。

触媒
三元触媒の構造(出典:AGUS HP
DPFフィルター
DPFフィルター(出典:日本ガイシ HP
尿素SCRシステム(出典:Car motor fan HP

自動車排ガス規制は米国の大気浄化法が初、それが世界中へ広がっていった。欧州では、1992年に排ガス規制Euro1が制定され、その後度重なる改定を経て2014年にはEuro6が施行された。規制値は以下の表に整理(乗用車のみ)。ガソリン車両とディーゼル車両で規制物質対象や規制値が異なる。

欧州排ガス規制の規制値一覧
(出典:Fleet Europe HP

なお、対象車両がこれら規制値を満たしているかをチェックするために、各自動車会社はEU加盟国の特定認可当局から車両認可を取得しなければならない。その認可を取得するためには試験台の上で車両を走らせるだけでなく(その走らせ方もNEDCからWLTPへと改定)、実走行させたり、停車中の車両からの燃料タンクから染み出る物質の測定、販売中の車両の抜き打ちテストなど様々な試験法が確立されているが、ここでは割愛。

2. Euro7概要

2022年11月、欧州委員会がEuro7法案を公表、Euro6よりさらに厳しい排ガス規制を、2025年半ばから課すという内容だった。新車販売自体は2035年までに内燃機関/ICE車両販売禁止となるが、市場ストックを見ると、2050年時点で乗用車の2割、大型車の半数以上がICE車両となる見込みで、この市場ストックをよりクリーンなものとし、大気汚染を改善したいというのが狙いだった。主な提案内容は以下

  • NOx排出の大幅追加削減:乗用車=-35%、大型車-56%(現行規定比)

  • PN(微粒子状物質の粒子数)の粒径を23ナノメートルから10ナノメートルに引き下げ。

  • 規制物質拡大:乗用車はアンモニア/NH3追加、大型車はホルムアルデヒド/Ch2O亜酸化窒素/N2O追加。

  • ブレーキ&タイヤ粉塵規制追加

  • 車両ライフサイクルを通じた排出量測定&データ提出規制(OBM:on board measurement)

  • EV&PHEVバッテリー耐久性要求

なお、こちらの動画(6分程度)がEuro7の全体像を、適切な粒度で語っている。

同法案は1年におよび政策議論を経て、2023年12月に暫定合意に至る。合意内容は、原則Euro6レベルの規制レベルを保持しつつ(NOx削減強化はドロップ)も、PN10ナノメートルに引き下げ、乗用車はNH3追加(規制値なし、OBM対象)大型車はN2O追加となった。ブレーキ粉塵は、バッテリー式電気自動車(BEV&PHEV)は3mg/km、ICE&HEVは7mg/km。タイヤ粉塵は国連で引き続き議論。バッテリー耐久(最低性能用件)は、満充電容量の80%を5年/走行距離10万km時点で保障(72%@8年/16万km)。法規発行/施行後、新型車は30か月後、全車は48か月後適用開始。他細かいのは割愛。

3. コメント

興味深いのは、欧州委員会提案に対して、欧州議会&EU理事会が合意した内容がかなり緩和されたということ。今まで長らく欧州法規を見てきたが、欧州議会案より厳しくなることはあっても、緩くなることはめったになかった。最近唯一あったのが、自動車CO2規制の改定で、カーボンニュートラル燃料が押し込まれた時ぐらい。

※自動車CO2規制の改定の話はこちらから

自動車業界としてはWelcomeであることは間違いないであろうが、業界ロビーのおかげかと言われるときっとそうではないはず。そもそも、日本と異なり欧州界隈では業界の声というのはそれほどポリシーメーカーに響くものではなく、ディーゼルゲートを起こした自動車業界ならなおの事。一方環境団体は声高に脱ICE車両を叫び、何なら欧州委員会案さえ生ぬるいと考える方々。

そう考えると、今回規制が緩く、というか、より現実的なものになった背景には、コロナ危機からエネルギー危機と危機に見舞われ続ける世の中で、経済停滞、失業率高止まり等々もあり、EU加盟各国も厳しい環境規制に対して足踏みをし始めたのだろう。また、少しテクニカルになるが、欧州議会側のラポルターに保守派ECR議員が就任したのも大きかったのではないかと思う。

※欧州連合における政策決定プロセス詳細は下記


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