欧州連合(EU): 成り立ちと政策プロセス
複雑怪奇な欧州連合/EUという地域統合共同体。普段はそのEUが作る政策に関して記事を書いているが、そのEU政策を作る決定プロセス(例:三者協議とか専門家以外知らないはず)について、必要最低限の情報を整理してみた。
記事要約
世界大戦後の不戦&平和に向けた気運を背景に欧州石炭鉄鋼共同体/ESCSが設立のが事の始まり。
今日のEUは、1993年の欧州連合条約@マーストリヒト)で設立、1本目の柱、欧州共同体の枠組みで、教育、医療、消費者保護から産業政策や環境まで汎EU法規を作っていくことが盛り込まれた。
欧州委員会/EU COMが法案作成、欧州議会/European ParliamentとEU理事会/Council of the EUが法案審議、最後みんな一緒に決める。
1.そもそも欧州連合/EUってなに
二つの世界大戦を経験、主戦場となった欧州は甚大な被害を受け、不戦&平和に向けた気運が高っていたが、それが欧州連合のそもそもの背景。
当時、すでに戦間期に「欧州統合の父」と呼ばれるフランスの政治家ジャン・モネさんが、たびたび紛争の火種になっていた独仏国境地帯の石炭と鉄鉱石の共同管理を提唱していたが、それが実現されず、第二次世界大戦に突入。
1950年、この構想に基づいた欧州各国の共同体設立を、当時の仏外相ロベール・シューマンが提案。
そして、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体/ESCSが設立されたのが欧州連合の始まり(加盟国:ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ)。
その後、1958年には経済統合を進める欧州経済共同体/EEC、原子力エネルギーの共同管理を進める欧州原子力共同体/EURATOMが発足。
1967年、欧州共同体/ECが設立、これら3つの共同体の運営機関が統合され
る。70年代の不安定な時代の後押し(例:ニクソンショックなど)、ベルリンの壁崩壊&冷戦終了&東西ドイツ統一(1989)、旧共産主義圏の中東欧諸国との新たな関係の構築の必要性など、欧州を取り巻く世界情勢の変化を経て、1993年の欧州連合設立(欧州連合条約@マーストリヒト)への流れが加速。目的は加盟国間の経済・通貨の統合、共通外交・安全保障政策の実施、欧州市民権の導入、司法・内務協力の発展等で、EUの三本柱は以下。
特に1本目の柱、欧州共同体の枠組みで、教育、医療、消費者保護から産業政策や環境まで汎EU法規を作っていくことが盛り込まれた。また、1967年EC設立条約に盛り込まれていた通貨安定、人・物・資本・サービスの自由な移動&欧州共通市場の建設を踏まえ、経済・通貨統合に向けたEMU創設&ユーロ導入も盛り込まれた(②と③は割愛)。
その後、数度にわたる加盟国拡大、2009年のリスボン条約などを経て、今日EU加盟国は27か国(ユーロ導入国は20か国)、
2.政策決定プロセス/コデシ
EUとしての大きな戦略や方向性を決めるのが欧州理事会/European Council、その方針に沿って法案を作るのが、日本の省庁に相当する欧州委員会/EU COM、欧州委員会の法案を精査するのが欧州選挙で選ばれた欧州議会/European ParliamentとEU加盟国の閣僚から構成されるEU理事会/Council of the EU。
つまり、脱炭素系の各種法案などは、まずは欧州委員会が策定する。策定に当たっていろんな人からいろんな意見を聞いたり(例:パブコン)、コンサルに調査させたりする。
欧州委員会の法案を受け取った欧州議会は、その法案の内容により、関連する議会内委員会/Committee(例:脱炭素系なら、環境委員会や産業委員会など)に割り当て、検討の末、欧州委員会としての意見を決める。
委員会内でリードを取る議員をラポルター/Rapporteurというが、これがどの政党に落ちるかがポイント。緑の党系の議員に落ちれば、欧州委員会法案に対する欧州議会の立場のグリーン度が増すし、後ろ向きの議員に落ちれば、産業よりの立場になりがち。
同時に加盟各国の代表者から構成されるEU理事会でも精査が開始。当初は法案関連分野の各国エキスパート同士から構成される作業部会/Working Partyで議論、そこで決まった議論が、さらに上の各国大使から構成される会議体コルペール/Coreperで議論・承認され、最後は各国閣僚から構成される閣僚理事会で承認し、Common positionと呼ばれるEU理事会としての立場を決める。
そして最後に、欧州議会、EU理事会と欧州委員会の間で会議が行われるが、これを三者協議/Trilogueという。ここで決まったものが暫定合意。暫定合意は欧州議会およびEU理事会で正式採択され、官報発行となる。
以上はあくまでコデシと呼ばれる通常立法手続きの話で、細則はまた別のプロセスがあるがここでは割愛。
なお、EUを基礎付ける条約である第一次法と条約に法的根拠を持ち、そこから派生する法である第二次法/EU法に分類される。
EU法は、①規則(Regulation)、②指令(Directive)、③決定(Decision)、④勧告・意見(Recommendation/Opinion)の4種類が存在する。
3.コメント
超簡略化しても2000字を突破してしまった。それでも書ききれない。それだけ複雑なシステムとなっている欧州。
普通の一般市民は、欧州が何やっているかわからない。民主主義の欠陥/Democratic deficitsと呼ばれたりもする(改善してきてはいるが)。
ちなみに日本の官僚に相当する欧州委員会の職員の大部分はブリュッセル在住だが免税特権があり、税金を払わない。
そりゃあ、欧州市民も欧州に対していい顔しないのは当然な気がする。
併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?