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欧州: 脱炭素と重要鉱物資源

重要鉱物資源の安定的供給が必須となる脱炭素。欧州も、EU重要原材料法/CRMAを制定。その背景や概要、関係者の評価をnoteにまとめた。

記事要約

  • 脱炭素に向け、益々必需品となる重要鉱物資源。採掘・加工ともに中国を中心とした数ヵ国に牛耳られているのが現状。

  • サーキュラエコノミーの一環で鉱物資源の回収・リサイクルを推進してきたが一向に効果は現れず、規制に踏み切った形。CRMAには、2030年努力目標やバリューチェーンのモニタリングや評価が盛り込まれた。

  • 内容としては弱く、不十分との評価。追加施策が求められる可能性大。




1. そもそも重要鉱物資源とは?

脱炭素化/カーボンニュートラルで不可欠となる鉱物資源。再エネ発電施設などクリーンエネルギー技術などで多く使用されるためだ。しかし採掘&加工している国が限られており、地政学的リスクを高めている。

※重要鉱物資源を巡る国際情勢は下記から

無論、欧州もそれなりの試行錯誤を重ねてきている。第一に、最初のCritical Raw Materials (CRM)リストを策定したのが2011年、以降5度にわたってリストを改定し、第5次リストは後述するEU重要原材料法/Critical Raw Materials Act (CRMA)に盛り込まれた。

欧州域内で取れるCRM
欧州域内で取れるCRM(出典:欧州委員会 CRM&CE報告書, 2018

第二に、CRMを特定した上でどうするかは、2015年に欧州委員会が打ち出したCircular Economy(CE)というコンセプトと行動計画の中で議論されてきた。ざっくりいうとCEは、廃棄される製品や原材料、リソースの価値を再評価し、廃棄処分最小化&リサイクル促進で、これらを欧州域内に蓄積させるという考え。

the transition to a more circular economy, where the value of products, materials and resources is maintained in the economy for as long as possible, and the generation of waste minimised, is an essential contribution to the EU’s efforts to develop a sustainable, low carbon, resource efficient and competitive economy

EU COM Circular Economy Packageより抜粋
サーキュラーエコノミーの概念
サーキュラーエコノミーの概念(出典:欧州委員会 Circular Economy Package)

という形で、上位戦略&政策としてCRMの回収と域内蓄積を唱えてきたが、CRMのCEは一向に成果を収めなかった。そこで法規化しようという流れが出てきた。

2. EU重要原材料法/CRMAの概要

①政策決定プロセス

現行欧州委員会が打ち出したEUグリーン・ディール。その目標である2050年気候中立を実現するためには、CRMの安定的供給が必須となる。

2023年3月、欧州委員会はEU重要原材料法の法案を公表。CRMの供給を全面的に輸入に頼っているEU。特に一部のCRM供給は、中国を中心とした少数の域外国に集中しており、これら懸念を打開する法案内容となった。具体的には、CRMのうち特に戦略的重要性が高く、供給不足の恐れがあり、生産の拡大が比較的難しいものを戦略的原材料(SRM)と定め、域内採掘・加工・リサイクルに関するベンチマーク(2030年努力目標)を設定。他、CRMのバリューチェーンの強化や、供給元の多角化などの方針&規定を盛り込んだ。

欧州議会法案は、コデシに則って、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議され、2023年11月暫定合意に至り、官報発行待ちとなっている。

②概要

最終的に、法規に盛り込まれたSRMリストと経済的な重要性と供給リスクの観点から選定された重要原材料/Critical Raw Material (CRM)リストは以下。4年毎に見直しが入る。

SRMリスト(出典:DFTA Institute
CRMリスト(出典:DFTA Institute)

SRMの安定的供給に向けた2030年ベンチマークは以下で決着:

  • 域内採掘で、域内需要の10%を賄う

  • 域内加工で、域内需要の40%を賄う

  • 域内リサイクルにて、域内需要の15%を賄う

  • 第三国への依存度は、以上のどの工程においても、域内需要量の65%以下に収める

さらに、以下から構成されるCRMのモニタリング・メカニズムリスク軽減のための枠組みを設定。

  • モニタリングとストレステスト:貿易フロー、需要と供給量、供給の集中、およびバリューチェーンの各段階のモニタリング;サプライチェーンのストレステスト実施し脆弱性評価(3年毎);各国に対する報告義務。

  • SRMを使用する戦略的技術製造業者に対するサプライチェーン監査義務(2年毎):戦略的技術とは、エネルギー貯蔵、eモバイルバッテリー、水素や再エネ関連機器、データ関連機器、モバイル電子機器、ロボット、ドローン、衛星、先端チップなど

  • EU加盟国間での共同調達システムの導入:透明性を確保したうえで、価格など条件に関する共同調達の交渉が可能に。

環境保護規定も併せて盛り込まれた。

  • 永久磁石のリサイクル推進:モーター車両、ヒートポンプ等永久磁石を使用する製品製造業者に対する情報開示義務&リサイクル材最低含有率規定(2030年以降)

  • 認証スキームを通じたCRM持続可能性の遵守

  • 環境フットプリント:欧州委員会が定める算出・検証方法に基づいたCRM環境フットプリントの宣言義務(上市時点)。

3. 評価とコメント

CRMAに対して関係者の言葉は厳しい。投資誘導する形になっているUSのインフレ低減法に対し、CRMAは事務的手続きだけ膨らみ、実際のプロジェクトに対する投資を促進する法案になっていないと批判する産業界。さらにGreen関係者からも、もっと持続可能性を追求する法案とすべきとの声。

確かに、蓋を開けたら2030年ベンチマークという目標値と、モニタリングや監査義務に加え、永久磁石のリサイクルを促進するという、内容的には弱いものになっているCRMA。第3国との関係強化と供給先の多角化も盛り込まれているが、どこまで実効性があるか、といったところ。業界やGreensらが不満に思うのも仕方ない気がする。重要な法案ではあるが、十分な内容とはなっていない。しっかりと域内産業を育てるという意味でも特に資金繰りが必要なんじゃないかと思う。

比べて日本はどうなのだろうか。機会があれば調べてみたい。


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