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脱炭素と鉱物資源

数年前から、国際エネルギー機関/IEA(於:パリ)が、脱炭素/ネットゼロにおける重要鉱物資源の安定的供給の重要性に関して分析レポートを公表してきており、その概要とそのインプリケーションをサクッとまとめてみた。

記事要約

  • EVや再エネ発電施設に使用される重要鉱物資源の安定的供給は、脱炭素/ネットゼロ達成に向けて不可欠。

  • IEA将来予想によると、現在の重要鉱物資源の供給増加ペースでは不十分、供給加速すべき(40年までに少なくとも6倍)。さらに地域的な偏りを是正するべくバランスの取れた取組が必要。

  • 中国政府はODA等をテコに重要鉱物資源を有するアフリカ諸国と関係構築、中国EVメーカーは材料調達からバッテリー、EV製造までカバーする垂直型企業&バリューチェーンを構築。




1. そもそも重要鉱物資源とは?

脱炭素化/カーボンニュートラルで不可欠な重要鉱物資源。電動自動車(EV)のバッテリーや各種モーターの他、風力、太陽光、地熱等の再エネ発電設備やそこで使われる蓄電池などいろんなところで必要になる。

重要鉱物資源/CRM (Critical Raw materials)というとリチウム、コバルト、ニッケル当たりがぱっと頭に浮かんでくる。が、どうも世界交通の定義はないとのこと。そこで欧州連合/EUの定義を調べたら下記資源がリストアップされていた。

EUの重要鉱物資源リスト
EUの重要鉱物資源リスト(出典:欧州委員会HP)

2. 脱炭素/ネットゼロにおける重要鉱物資源

IEAは、「クリーン・エネルギーへの移行における重要鉱物資源の役割/The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions 2021」と「Critical Minerals Market Report 2023」という報告書を公表している。

EVや再エネ発電施設などに使われる重症鉱物資源の量は、既存車両や施設の比ではない。バッテリー性能や耐久、エネルギー密度向上にはリチウムやニッケル、コバルト、マンガン/Manganeseや黒煙/graphiteが、風力タービンやEVモーターには永久磁石/Permanent Magnetsに使用されるレアアース/Rare earths、グリッドは銅やアルミニウムを必要とする。

EVや再エネ施設で使用される重要鉱物資源の量
EVや再エネ施設で使用される重要鉱物資源の量(出典:IEA 2021レポート

重要鉱物資源の世界全体の将来需要&供給予測は下記の図。今のペースだと2040年までに現在の量の倍になる(Stated Policies Scenario)。しかし、ネットゼロを達成するには、2040年までに6倍の重要鉱物資源供給が不可欠(特にEVやバッテリー蓄電が30倍(リチウム40倍、黒煙、コバルト、ニッケルは20倍)、グリッド拡大による銅需要は2倍)。

世界全体の重要鉱物資源の将来需要予測
世界全体の重要鉱物資源の将来需要&供給予測(出典:IEA 2021 レポート

銅、ニッケル、コバルトに関するセクター別の将来需要予測は下記。EV関係やグリッド関係のシェアが大きい。

世界全体の重要鉱物資源のセクター別将来需要予測
世界全体の重要鉱物資源のセクター別将来需要予測(出典:IEA 2023レポート

そして、重要鉱物資源の採掘/miningと加工/processingは、一部の国に集中している。発掘&加工ともに中国のプレゼンスがすごい。

重要鉱物資源と化石燃料のトップ採掘国(出典:IEA 2023 レポート
重要鉱物資源と化石燃料のトップ加工国(出典:IEA 2023 レポート

他にも、重要鉱物資源の質の話やリサイクルの重要性などの話も盛り込まれているがここでは割愛。

なお、IEAは2023年9月にIEA重要鉱物・クリーンエネルギーサミットを開催、6つのアクションプランを採択。

  1. 鉱物供給の多様化:鉱物の安定的供給と価格の安定化には供給源の多様化が不可欠

  2. リサイクル促進:今後どんどん増える使用済み製品・機械からの回収・再利用が重要

  3. 市場・価格の透明性の確保:価格が不透明でボラティリティがあるのが現状。供給ルートも不透明で、デューデリ&トレーサビリティ確保が必須

  4. データ収集:重要鉱物資源の採掘や加工を含め関連情報の収集と分析

  5. ESG配慮へのインセンティブ作り

  6. 国際協力

3. 思ったこと

日本を含め、世界のエネルギー関係者から一目置かれる国際エネルギー機関/IEA。やはりいつみても、その豊富なデータに基づく現状分析は素晴らしいの一言(将来予測は別として)。

実は本日、IEAによる政策決定者向けのウェビナー「Sustainable and Responsible Critical Mineral Supply Chains」が開催されたが、参加できず。You Tubeにもアップされていないので内容はわからずじまい。だが、パネリストを見る感じでは、おそらく上述6つのアクションプランに基づいたBest PracticeをQuickにシェアするような会議だったのだろう。

鉱物資源発掘と供給の地域的偏りは非常に懸念材料。ほぼ中国に握られている。もうずいぶん前から中国はアフリカに対して潤沢な開発資金(ODA)を戦略的につぎ込んでいるが、その効果がこういった形でも現れてきたということ。そしてBYDなど中国EVメーカーは、材料調達からEV製造まで手掛ける垂直構造企業体制&バリューチェーンを、構築、安価なEV供給でテスラを抜いて世界一になったことは記憶に新しい。

日本も、こういった戦略的なODAを実施すれば、国民理解を得れるのかもしれない。

しかしIEA、エネルギー機関なのにもかからわず、鉱物資源の話にまで手をだすその前のめり姿勢は評価。


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