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『 きみとぼくのうた 』 - 1分で読める深く心に残る物語

 うたが聞こえた。
 夏休みに訪れた父の実家で、眠れない夜に部屋を抜け出し、海辺を散歩していたときのことだ。
 ことばの意味は分からなくて、耳を澄ましても聞き取ることはできなかった。そのうたに胸が震えて、もっと聞きたくて、走り回って探しても声の主は見つからず、結局一番よく聞こえる岩場に腰掛けて耳を澄ましていた。
 いつまでもうたは続いていた。
 水面を揺らし、空気を渡って、鼓膜を揺らすそのうたは、ひどく寂しくて、けれど力強くて。
 うみのかみさまがいるなんて。そのうたを聞いたら魅入られてしまうなんて知らなかった僕は、たしかにそのとき、呟いてしまった。


「言ったわよね?」
 あのとき聞いたうたと同じ音で、碧をまとった彼女はいたずらっぽく微笑む。
 目の前で笑う彼女は、あの日のひとりごとを確かに覚えていた。
「わたしのうた、もっと近くで聞きたい、って」
 その日、僕のクラスにやってきた転校生は、信じられないけれど、間違いなくあの日の彼女と同一人物であって。

 その日からぼくと彼女の、不可思議な学校生活がはじまったのだ。



絵 はしもとあやね @enayacomic
文 ねきの@nekino_e



イラストレーター×文筆家の物語ユニット
 et word

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