見出し画像

雪解けの大地が映し出す「心」のほぐれ⑦

雪解けが進みはじめる、4月の北の大地。
この地に足を踏み入れるのは、前職の出張以来となる6年ぶりだった。
今年の札幌は記録的積雪で、道や線路の脇に名残と、風の冷たさが頬に触れる。
もうすぐ芽吹き始めるだろう木々たちを眺めながら、旅の目的地まで心が先へ先へと急いでいるのを感じる。

待ち受けていたのは、期待を遥かに超える、気づきと変容だった。

1話2話3話4話5話6話はリンクから


19.犠牲は求めてない

「だーかーらー、2人には、いつも言ってるじゃん。傷つけられる必要なんてないんだよ。2人を傷つける奴らには、私が言いに行きたいくらいだよ!」

何度言われてもコリない。
頑固とも言う。
分かっているようで、実は全く自覚できていないのかもしれない。

自己犠牲的な要素が強い、というのは自覚していたことだった。
2年前、起業した時から、コーチングやカウンセリングを活用して、自己対話を重ねてきた。私に「自己犠牲」の感覚が強いことは、ちょうど1年前から把握していた。
しかも、これまでの経験や体験だけではなく、遺伝的なレベルでも、過去生レベルでも、何度となく「自己犠牲」を経験している。

だから何度もこのテーマに取り組んできた。
犠牲、と感じない範囲はどこまでなのかを探りながら。

例えば、食品会社の会社員時代。
会社のためには、どんな要望でも対応しようと思って邁進してきた。
先輩から「大人のいじめ」に遭っても、私が我慢すれば他の人には危害は加わらないし、業務にも支障をきたさないからと、耐えてきた。

起業してからも、正規金額で報酬をいただくことには気が引けた。罪悪感すら感じた。
起業の相談に乗る時も、ついつい自分の能力や過去のノウハウを、全て差し出すようなことをしてきた。

これらも振り返れば、全部「自己犠牲」だったのかもしれない。

気をつけないと、善意のある人ばかりではなく、利用されることだってあるから。
周りからも心配されてきたから、しっかりと自己犠牲のテーマには向き合ってきたつもりだった。

ビジネスでは、ようやく自己犠牲感なく取り組めるようになってきたと思う。
それでも、プライベートの人間関係では、どうしても「NO」と言えないシーンが多々・・・

今回、二人に相談していた人間関係でもそうだ。
相手から攻撃的な言葉を浴びるけど、その人も根本的には良い人だから。
今は寂しいと心が泣いているから、私に厳しい言葉をかけるんだ。
そう思って、嫌だという言葉を飲み込んで耐えていた。

そこに、冒頭のみっちーの言葉だ。

そうか、私はまた自己犠牲を重ねていたのか。
何から身を守っているのだろう。なぜ自己犠牲的になるのだろう。
顕在化している理由は見当たらない。
きっと奥深くで抱えている何かがあるんだろうな・・・

ぽーりーが剥いてくれた蟹を食べながら、悶々と考える。

第一弾で出てきた手料理、この後もまだまだ出てくる

20.蟹と向き合う

毛蟹と花咲蟹。

どちらも、口にしたことがなかった。
北海道に来る機会もなければ、山陰育ちの私は松葉ガニ(ズワイガニ)にしか馴染みがない。

毛蟹は、上品な味わいだった。
蟹味噌もクリーミーで、身もしっとりして割と淡白な風味。
ぽーりーが、甲羅に味噌と身を和えて出してくれた。

この甲羅で、一杯やりたくなるなあ。
スパークリングワインと共に嗜む。

一方で、花咲蟹(タラバガニ)はインパクトのある味わいだった。
これにはビールがぴったりだった。
どちらも剥きにくい形なのに、器用に普通のハサミで捌いていく、ぽーりーの姿は格好良い。
なぜか、今日に限って、彼女の家のキッチンバサミが旅に出ていたのだ。

「誰が持ち出したんだ〜!」

叫びながら、普通の工作用ハサミを取り出して剥いてくれた。
器用だな・・・

蟹と向き合いながら、みっちーの言葉を噛み締める。
傷つけられる必要なんてない。

言葉の暴力を浴びることに、いつから慣れてしまったんだろう。
それでも、人間は良いところを持ち合わせていると信じているし、実際にみんな何かしらの闇を抱えているから、投げる言葉が強くなるんだろうなって思ってきた。

昔の付き合っていた彼氏たちは、モラハラだったな・・・

そんなことが頭をよぎる。
親友に、いつも心配されていたっけ。
殴られたりすることは一度もなかったけど、言葉の暴力は何度も浴びてきた。
行動も制限されてきた。
誰と遊ぶか、何をするか、どこで働くか。
全て監視管理されていた。
それを甘んじて受け止めていたのも事実。
制約、怒り、束縛、支配こそ、愛。
そんな壮大な勘違いをしていた。

そんな思い込みを持っていることに気がついたのは、なんとホースコーチングにくる2週間前だった。

今の夫は、もちろんそんな人ではない。
無条件に信頼し、愛を注いでくれる。私だけではなく、お姑さんにも、息子にも、私の家族にも。
彼と出会ってから、少しずつ「自己犠牲することなく、愛されていい」と学んできた。

そして、2018年夏に息子が生まれて、
「ただ存在するだけで、愛されていい」
という無条件の愛の在り方も学んできた。

そこに貢献や、価値や、見返りなんて不要。
もちろん、自分を犠牲にしたり、傷つけることだって不要。

分かり始めている、はず、だった。
黙々と蟹を見つめて考える。

「でもさ、本質的な部分では、良い人だって分かっているから。今は相手も辛いから、本当の自分じゃないから、きつい言葉を言ってくるんだよ。」

そう、二人に言ってみた。
みっちーから、返ってきた言葉は心を突き刺す。

「えすみん。それね、DVされている女の人と、おんなじこと言っているよ。100あるうちの1しか傷付けられていない。99は良い人。そうだとしてもね、1は100のインパクトがある。1でも絶対にダメなの。許してはいけないの。」

そうか、そうだな。物理的に殴られてはいないけど、言葉でも傷付けられている。
心の傷は、魂の傷は、目に見えないから・・・
見えないから、その傷を無視してきたんだ。
私が私を守ってあげるということが全くできていなかったんだ。

毛蟹や花咲蟹のように、身体にトゲを纏って、防御することだって必要。
それは生存戦略だから。
蟹がメタファーになって、どうすればいいかを語ってくれているようだった。

THE HOKKAIDO

21.NOと言えない日本人

ぐるぐると頭を巡る。

なぜ、友だちにNOと言えないのだろう。
なぜ、すごく傷ついたって言えないのだろう。
なぜ。そうだよねってヘラヘラしながら受け取っちゃうのだろう。

振り返って自分の行動を責めてしまう。
その瞬間、私の心はシクシクと泣いている。
私が、私を守ってくれない、それが一番悲しいと。

話は、ぽーりーの方へ移った。

「私もね、えすみんと同じような状況になったんだけど。でも、はっきりと『NO!』と言って、もう近寄らないことにした。もう限界だから。」

彼女自身も、自分と、そして自己犠牲と向き合ってきたタイミングだったんだ。

「嫌なことされても、しょうがないかって。当たり前のように諦めていた。意地悪されても、まあ私のせいもあるしなって。でもね、先日、ある出来事があって分かったの。私は、存在していることに罪悪感を感じているって。そしてその正体も。」

存在することに罪悪感を感じていた。

意外な言葉だった。
なぜなら私から見た、ぽーりーは、スーパーできる人だから。
テキパキと事をこなすし、周りの空気を読んで先回りして対応する。
物分かりが早く、純粋な子どものような無邪気さを持ちながら、大人な対応もしっかりとする。
サクサクと手際よく酒の肴をつくって、振る舞う。
お酒を飲むと、ついつい本質的なことを言ってしまって、翌日覚えていないし後悔して謝って回る、お茶目な人。
人間らしくもあり、聖母的でもあり。私の良き理解者。

その彼女が、存在に罪悪感を感じていたなんて・・・

私の周りでは、彼女のことを悪く言う人はいない。
だから、本当に驚いた。

やっぱり類は友を呼ぶのかもしれない。

私たちは、何かしら罪の意識を持ちがちだ。
何か悪いことが起こると、まずは自分が悪かったのではと自責の念を持つ。
自責が強すぎて、時に、自分で自分を厳しく攻撃し、罰する。
周りからよりも、自分が一番、自分にストイックで厳しい。

だから、つい、自己犠牲してもしょうがないと思ってしまうのかもしれない。
その根本にあるものは違っても、出てきている性質は似ている。

私も、その根本に向き合わなければならないタイミングなのだろう。

「私も、NOと言ってみるね。傷付けないように。戦略的に。」

そう宣言する。
すると、みっちーがすかさず言う。

「戦略とかいらないの!頭で考えない!NOなものはNOなの!以上、だよ。」

・・・難しい。
NOということが、こんなに難しいなんて。

考えすぎ

そう声をかけられることもある。
でも、その考えすぎなところも、相手の気持ちを汲みすぎてしまうことも、それも私の特性だからなあ。
うまく付き合っていきながら、相手にも主張する練習をする時なのだろう。

これから、事業を広げていく中で、たくさんの仲間に出会いたいと思っている。今ここで、NOということができなかったら、ずるずるとブランドも会社も巻き込んできまう恐れだってある。

今、私に必要なのは、NOということなのかな・・・

時計を見ると、なんと0時を超えていた。
17時にぽーりーと落ち合ったから、7時間もぶっ通しで話していたようだ。

話は尽きない。

でも、今日はこれでおしまい。
急遽巻き込んだ、みっちーにもお礼を言い、タクシーを呼んでもらいホテルに帰る。

今日は、お風呂に入って、着替えて寝よう。
そうして支度をすると、2時近くになっていた。
眠いけど、悶々として寝れない、そんな2日目の夜だった。

次回に続く・・・

酔っ払い万歳


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?