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雪解けの大地が映し出す「心」のほぐれ⑪

雪解けが進みはじめる、4月の北の大地。
この地に足を踏み入れるのは、前職の出張以来となる6年ぶりだった。
今年の札幌は記録的積雪で、道や線路の脇に名残と、風の冷たさが頬に触れる。
もうすぐ芽吹き始めるだろう木々たちを眺めながら、旅の目的地まで心が先へ先へと急いでいるのを感じる。

待ち受けていたのは、期待を遥かに超える、気づきと変容だった。

リンクより
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30.散歩

最後のアクティビティが始まろうとしていた。
れいちゃんのリクエスト
「フワちゃんともう一度散歩したい」を叶える。

このアクティビティは、ホースコーチングの最初にトライしたものだった。
その時、先陣を切ったのは、れいちゃんだった。

馬や未知に対して、恐れもあった初めの頃。
馬が近づくと、戸惑い、離れていっていたことが既に懐かしい。

馬場に入った瞬間から、れいちゃんとフワちゃんの距離感は近かった。
安心して居られることが、傍から見ても伝わる。

馬から逃げ回っていた、当初の彼女の姿からは想像もつかない光景が広がっていた。
思わず、私は動画を撮り始めた。
この瞬間は後から見返してもきっと宝物になる、そう確信があった。

「楽しかった!わがままに付き合ってくれて、ありがとうございます!」

この言葉を聞いて、込み上げるものがあった。
彼女が最初のアクティビティで発した言葉と対照的だったのだ。

「ごめんなさい!時間がかかってしまって。ギブアップしようかも悩んだけど、ごめんなさい、やり切りました。」

私たちは誰も苛立っても、責めてもいなかったのに、ひたすら謝る彼女の姿を見て、私は心が痛かった。
周りを思いやる優しさを感じる一方で、周りの目を気にして自分を責める姿を見て、何が出来るのだろうか、ずっと考えていたからだ。

でも、この3日間で、驚くほど変容した。
最後はフワちゃんと最高の笑みを浮かべて、走る姿も見せてくれた。
これこそ、本当の彼女らしさなのかもしれない。

「あきぽんも、やりましょう!」

Amiiさんからの提案を受け、嬉しそうにあきぽんが馬場に入っていく。
彼女の馬に対してのスタンスは、初めと変わらなかった。

まるで、我が子を見守るような温かな眼差しと、相手を尊重する寄り添い方。

母性、優しさ、尊重、愛、ファーストペンギン、積極性、クレバー。
すべて彼女の特長を表す、魅力的な人間性。
それが馬との対峙にも現れている。

唯一、変化したと見えたのは、肩の力が抜けたことだった。

特長からもわかる通り、素晴らしい人で優等生的な立ち振る舞いなのだけど、どこかいつも「正解」があるような感覚を覚えていた。
本当の気持ちや、彼女らしさが、その正解という鎧によってフタされているような。
友として、少し距離を置かれる感じがあった。

でも、この3日間で、明らかにその鎧が取れているように映った。
リラックスして、オープンハートになる彼女のことが益々好きになった。

他の人のアクティビティを見て、たくさんの気づきがあるのは、ホースコーチングならではだろう。

そして、誰と来るか?
この4人で、Amiiさんのガイドを受けられたことに、有難みを感じずにはいられなかった。

あきぽんの散歩

31.勝手

人間たちだけで対話する、最後の時間が始まった。
何度、このメンバーで机を囲んだろう。
回を重ねるごとに、オープンに、そして深く潜って行く感覚だ。

「雑談っぽくいきましょう。」

それぞれが、好きなことを語っていく。
たくさんのことを語り合ったが、一番印象的だったのは、それぞれが考えている思惑は本人が考える以上に伝わっていないということ。

れいちゃんとあきぽんは、最後まで歌舞伎とは触れ合わなかった。
その理由が、読めなかったので、率直に聞いた。

すると、れいちゃんからは思ってもいなかった反応が返ってきた。

「えー伝わってると思ってたのに!私は楽しみたかったから、恐れと対峙するのは今じゃなくていいやって思ってたの。」

あきぽんも答える。

「私は、何もしないこと、価値を発揮しないことを目的にしていたから。」

2人の目的は確かに、最初に聞いていたような気がする。でも、そんなことは忘れてしまっている。
人の記憶の許容量なんてたかが知れてる。
ましてや、目の前には刺激的な馬との触れ合いがあるのだから、他の人の目的なんてすっ飛んでしまう。

以心伝心には限界がある。
伝わらないものなのだ、という前提にいるだけで、どれだけコミュニケーションが改善されるだろう。

「思っているよりも、伝わらないよね。みんな、そうだよ。勝手に相手の状況を汲み取ってしまうこともあるし。」

Amiiさんの、その言葉にハッとする。

相手を思いやること
相手に忖度すること
相手の立場に立つこと

この4人は、息をするようにそうしている。
それが優しさでもあり、気遣いでもあるのだが・・・

危うい

相手の気持ちも、相手の思考も、結局私たちは推測しかできない。
勝手に判断することの危うさに気づく。

れいちゃんが「ごめんなさい」というのも
あきぽんが「正解を探す」のも
愛さんが「家族のために」と思うことも
私が「自己犠牲」することも

要は、そういうことなのか・・・
勝手に罪悪感や責任感を感じているかもしれない。
相手に確認せず、先回りしているのかもしれない。

全部、私たちの推測での物語なのか。

傷つくのが嫌だから、私は本人の口から本心を聞くことを避けている気がする。
リスクを想定すれば、ダメージは少ないから。
自分が傷つかないように、予測して、先回りして。

弱い自分を見つけた気がした。

これまでだったら、そんな自分を責めていた。
でもホースコーチングを受けて、分かったはず。
ありのままの、今の私を、抱きしめることを。
責めずとも、変わることが出来ることを。

だから、これも、大きな気づきとして持ち帰ろう。
素直にそう思えた。

れいちゃんの散歩

32.贈る言葉

本当の最後の時間が迫ってきた。
それぞれにギフトの言葉を贈るというもの。
ポストイットに3つの言葉を送る。
3人に対して、たくさんの思いが込み上げてくる。
3枚では到底足りないほどの思い。

慎重に言葉を紡ぐ。
直感で浮かんだことを、相手が受け取れる形で。

ひとりずつ、一言ずつ、シェアしていく時間は
この上なく幸せなものだった。
この3日間、時間を経るごとに自己開示が進みコミュニケーションは深くなっていっていた。
それぞれが本来の自分を取り戻していきながら、
自分を受け止め、走り抜けたホースコーチング。

たくさんの気づきと感動をシェアしたこと。
同じ空間で、同じ体験をすることが、こんなにも意味がある事だとは。
分かっていたつもりだった。
でも、本当の意味で全身で感じ取ったのは、このホースコーチングが初めてだったのかもしれない。

ひとつだけ「贈る言葉」を紹介したい。

あきぽんが、コーチを生業にしている、れいちゃんに渡した言葉。

「神様に、ならないで。」

コーチであるから、どんな人もどんなことも聖人君子のように受け止め、抱きしめて、勇気づけなければ。
そんな重圧を背負っていた、れいちゃん。
実は、私も全く同じものを背負っていた。
いや、むしろ4人全員が背負っていたかもしれない。

でも、それを友は、仲間は、求めていない。
私たちは人間として個性を持って生きている。
聖人君子になることも、神に近づこうとすることも、近くにいる友は求めていない。
このままの自分で良いのだ。

私に向けられた言葉ではなかったが、深く刺さる。

世の中が求める役割のステレオタイプに、勝手に苦しんでいたのだろう。

コーチだから
カウンセラーだから
起業家だから
女性だから
母だから

固定概念にとらわれないように注意していたが、見事にハマってしまっていた。

私は私で良い。

そういうメッセージを受け取り、最後の最後の対話時間まで、涙腺が緩みっぱなしだった。

あっという間に2泊3日のプログラムが終わってしまった。

「宇宙旅行に来たみたいだった」

そう、れいちゃんが呟く。
言い得て妙だった。

宇宙旅行という、想像もできない体験したことの無い未知へのドキドキ。
期待を遥かに超える気づきと感動。
そしてそれは瞬間的なものではなく、モヤモヤも共に持ち帰るので余韻が残る。
現に、この日から1ヶ月が経とうとする5/6でも、鮮明に脳に刻まれる体験たち。
止まらないグループ内のメッセンジャー。
咀嚼するほどに、新たな発見が毎回降って出る。
そんな特別な体験は、まさに宇宙旅行のようだ。

きっと、ことあるごとに、この時の体験がフラッシュバックする。
Amiiさんからもそう告げられる。

感動を、余韻を、体験全てを、余すことなく保存したい。そう思って筆をとった今回の体験記。
大層なボリュームになってしまったが、それでいい。

何度も振り返りながら、意味付けをしていくのだから。
この内容が数日後には、解釈が変わるかもしれない。
そんな楽しみも抱えながら、これで体験記は閉じていきたい。
一緒に行った仲間たちとの振り返り会や、その後についても書きたい、、、が、またそれは機が熟してから。

全員で雪解けを背景に和やかな笑顔

音声メディアでも体験については、語っていますので、ぜひお聞きください。

https://open.spotify.com/episode/5k9EaeAWsEiq6pTr4Qbvxy?si=f5Oq4WM9T5CzXiGY07YV2A

最後に、素晴らしいプログラムを提供くださったCOASのご紹介もこちらに。


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