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【映画感想】ビリーバーズ

1999年にビックコミックスピリッツで連載されていた山本直樹先生の漫画を原作に、『アルプススタンドのはしの方』、『愛なのに』、『女子高生に殺されたい』などなどなどの城定秀夫監督が映画化した『ビリーバーズ』の感想です。

えー、もう、原作の漫画が連載されていたのが1999年ということで、その4年前のオウム真理教の地下鉄サリン事件を受けて、いよいよノストラダムスの予言通りに世界は破滅してしまうのか(苦笑)?的な空気の中で読んだ記憶があります。そして、今、カルト宗教というものがまた取り沙汰される(しかも、今回のは前回の"合同結婚式"とか"霊感商法"とかの比ではないですよね。そのカルトが日本を仕切っていた可能性があるわけですから。)タイミングでの映画公開というのは、これまた何の因果なんでしょうか。いや、まぁ、ただ、そういう(日本、そして、そこから見えて来る世界の)ヤバさをずっと描いて来たのが山本直樹先生の漫画でもあるんですよね。

個人的に山本作品との付き合いは長くて、初めて都の条例の有害コミック指定を受けた『極めてかもしだ』から読み始め、その軽さの中にある狂気に惹かれ、新作が出るたびにその狂気が増殖して行くようにハマって行ったんですが、たぶん、最初のうちは、自分には実際に起こらないようなエロい事象をファンタジー(ある種の憧れ)として摂取していたと思うんですね。でも、そのファンタジー部分がだんだん現実にリンクして行くようになったというか。僕が山本作品の中で一番好きな(そして、一番ヤバイと思っている)のは、『ありがとう』という作品(『ありがとう』は、単身赴任中の家を占拠した不良たちと、久々に家庭に帰って来た父親との戦いを描いた家族崩壊の話なんですけど、ここで既にアル中の母親が新興宗教にハマって行くっていうエピソードが出て来るんですよね。)なんですが、僕が読んでた流れの中では、日常の中のエロを描いて来た山本作品世界の中で、その日常の中に直接的な暴力が描かれた最初の作品だったと思うんです。山本漫画のエロには常に(大前提として)暴力が内包されていて、それに抗えない人間の本質というものを描いていると思うんです(山本漫画を読んだときに感じる罪悪感というか背徳感はそのせいなのではないかと思います。)が、それを直接的な暴力と対比して見せたのが『ありがとう』だったと思うんですね(なので、当時、この漫画を読んで、自分の中の欲望に対する暴力性を直視させられることになったんですけど、それを突き付けられながらも抗えないエロへの貪欲さの恐怖というか。人間の恐ろしさというか。これはヤバい作品だなと思いました。そりゃ、まぁ、そういう意味で青少年には読ましちゃ不味いかなとは思います。読んでましたが。)。

で、『ありがとう』を起点にして、個人の暴力からだんだんと社会の中の暴力を描くようになって行ったのがその後の山本作品だと思うんですが、そのひとつの到達点がカルト教団の中の人を描いた『ビリーバーズ』なんですね。えーと、これはもうだから、暴力の中の暴力というか、社会の規範という精神的な縛りがある中で、そこからのドロップアウト(救い)の為の宗教だとすれば、そこから解脱する為に社会的な縛りよりも更に厳しい縛りを強要されるのが宗教じゃないですか。で、それを利用して人々を都合の良いようにコントロールするのがカルト教団なわけですね。だから、つまり、その縛りからも解放される術が人間の性的欲求(エロ)ってことだとすれば(で、山本漫画の中ではエロは人間誰もが内包する狂気として描かれてきたわけですから。)、それはもう、社会的な狂気に対して個人的な狂気でカウンターして行くっていう革命の話みたいだなと思うんです(ということで、この後、山本先生が『レッド』で連合赤軍を描くのは必然なのかなと。)。

で、それでも山本漫画のキャラクターが持ってる虚実入り混じる感覚というか、いそうでいなさそうな感じというのは、もちろん漫画という100%作り事という中で成立してるものだと思うんですけど、そこをどうするかっていうのが山本漫画を実写化するときの一番のポイント(であり難しいところ)だと思うんです。で、今回、城定監督がやったのは恐らく何もしないってことだと思うんですよ。なんですけど、この感じがそもそも城定監督作品に通底する虚無感なのではないかと思ってですね。何かしたいけど何も出来ない(で、とりあえずセックスだけはしとく)みたいな感覚。これが山本漫画にも通じる虚無感であり(かつてのピンク映画やエロ漫画が持っていた虚無感でもあると思うんですけど。)、特に『ビリーバーズ』みたいな作品は(現世から解脱する為に寝て見た夢を詳細に報告するという設定もあり)、夢(安住の地)と現実の間に存在する様な正しく虚無な話なので、この感じが出せてるだけでそうとう良いのではないかと思うんです(今回、観念的な話しかしてませんが、そういう話なんです。もともとが。)。

えー、ということで、何が言いたいのかと言うとですね。エロの中にある人間の狂気を社会へのカウンターとする青春映画として(しかも、ちゃんとエロく)描けるのは現状城定秀夫監督しかいないだろということで、山本直樹×城定秀夫なら間違いないと思い観に行ったら正しくその通りだったというお話でした。ちゃんと観てると罪悪感を感じながらエロい気持ちにもなるという辛エロい映画でした。


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