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ブライトバーン 恐怖の拡散者

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」監督のジェームズ・ガンが、過去に児童への性的虐待をネタにしてツイートしたこと(後に反省し謝罪済み。)が問題となりディズニーを解雇されてる間(こちらも出演者たちの懸命な擁護により「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3」の監督として再雇用となりました。)に制作した、"もしも、スーパーマン的能力を持った子供がいたら…"的ホラー「ブライトバーン 恐怖の拡散者」の感想です。監督は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」DVDの特典映像などを撮っていたデビッド・ヤロベスキー監督です。

えー、はい、ということで、なぜ冒頭にジェームズ・ガン監督がこの映画を制作した経緯を書いたのかと言うと、そこ、知ってからの方が腑に落ちたと言いますか、この映画のことをより好きになったからなんですが(僕はこの映画めちゃくちゃ好きです。整合性とか理性的であることよりも感情の高ぶりみたいなものが前面に出ちゃってる感じがとてもチャーミングで。)。監督のデビッド・ヤロベスキーさん、80年代のB級SFホラー的な雰囲気だったり、惨殺シーンのマニアックなエグさも含めて(それなのに全体の印象は日常性を保っていて)めちゃくちゃいいなと思ったんですが、それよりも、今回あまりにもジェームズ・ガン文脈が強くてですね(脚本もジェームズの弟のブライアンといとこのマークによるものですし。)。ガンがこの時期になぜこういう映画を作ったのかっていうことを考えるとめちゃくちゃエモいんですよ。で、それが映画そのものを根源的なものにしているというか、初期衝動的なんですよね、この映画。

ストーリーは単純で、いわゆる悪のヒーローの誕生譚なんです。12歳の主人公ブランドンが悪に目覚めるまで。目覚めたかどうかってくらいのとこでカットアウトする様に終わっているんですけど、それをヒーロー映画のオリジンの様に描いているんですね(もうちょっと詳しく説明すると、ブランドン少年は子供を欲しがっていた両親の家の裏山に隕石に入ったまま落ちて来た異星人なんです。で、そのことをブランドン本人には知らせずに育てて来たんですけど、12歳の誕生日を迎えた途端に、その眠っていた能力や、なぜブランドンが地球に送られたのかっていう使命に目覚め始めるという。まぁ、要するに「スーパーマン」と同じ設定で悪を描くってことをやってるわけです。)。だから、ブランドン少年が"悪と正義の定義に揺れたり"、"自分が何者なのか悩んだり"するのはきっとこの後というか。今回描かれるのは自分がしてることが良いことなのか悪いことなのかすら分かってない頃、つまり人で言えば、アイデンティティを形成して行く過程の序章部分(思春期の入り口。)なんだと思うんです。だから、続編があればここからむちゃくちゃ哲学的な話になって行くと思うんですよ。で、そういうことを示唆しながらもその感情の爆発のみを描くって話になっていて(97分ていう上映時間の短さを考えてもあえてのこの部分だと思うんですよね。ホラーですし。このくらいのニッチさがちょうどいいかと。)、それまで育って来た環境で育まれた人格がともともと持ってた異星人としての資質と血が入れ替わる様に変化して行くのを、自我の芽生えや思想的な変化により人が変わった様になってしまう思春期の変化として描いていて、例えば、最近観たので言ったら「RAW 〜少女のめざめ〜」なんかに近いと思うんです(ホラーっていう枠組みを外すなら、人が人じゃなくなる瞬間を思春期の狂気として描いてる「台風クラブ」みたいな話でもあるんですよね。)。この映画をいまいちって言ってる人の感想に「もう少しいろんな事件が起これば。」とか「ブランドンの心の動きがあまり描かれてない。」とかいうのが多かったんですけど、僕、めちゃくちゃ描かれてると思ったんですよね。育ててくれた両親に対する信頼。それとは違う文化や価値観が急に目覚めた驚きと混乱。自分でもどうしていいのか分からない焦燥と怒り。それを経ての開放とか。それをブランドンが能力を発揮する度に感じたんです(最後のニュース映像で飛び回ってるのなんか完全に開放の表現の様に見えました。)。

で、そういう人の狂気の部分を描いたホラーにヒーロー物をミックスしてるのがこの映画の面白いとこなんですけど。あの、ジェームズ・ガンに「スーパー!」っていう作品があるんですね。それは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で誰もが知るジェームズ・ガンになる前の作品なんですけど、"人が生きて行く為に絶対的に必要なのに割とないがしろにされているアイデンティティという概念"、その呪いと滑稽さをヒーローになりたいという夢を捨てられない中年男の喜劇として描いた映画だったんです(あ、そうか、「ジョーカー」を観た時にこの胸を締め付けられる様な切なさ知ってるなと思ったんですけど「スーパー!」でしたね。「ジョーカー」って夢が叶ってしまう「スーパー!」だったんですね。正しくヒーローっていう概念をもの凄くクローズアップで撮った様な作品でしたし。同じシチュエーションを近くから見たら喜劇になるっていうののお手本みたいな映画でした。)。今回の「ブライトバーン」って、それと対になるような(ヒーローになる能力も素質も持っているのに血がそうさせてはくれない)話だと思うんですよね。で、それを「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で映画監督として成功するという夢が叶った後、(まるで「スーパー!」の主人公がその思想ゆえにヒーローとして認められなかった様に)人間性に問題ありという理由で解雇されてしまった時に作ったってのにもグッと来るんですけど、その話がアイデンティティの発露(要するにジェームズ・ガンがジェームズ・ガンであるということの発端ですよ。)の話にしたっていうのも、なんか、良かったんですよね。ジェームズ・ガンの無邪気だけど恐ろしいこと考えてそうなところとか、凄い才能を持ってるんだけどそれが悪にも善にも振れそうなところとかブランドンくんと重なるんです。

あと、もうひとつ、SFの大きなテーマのひとつに、圧倒的に文化や常識が違う何かと対峙した時に人はどうするのかっていうのがあって、「未知との遭遇」とかドゥニ・ビルヌーブ監督の「メッセージ」とかそうなんですけど、これ、両方ともなんとなく意思疎通出来たってことで話しが閉じますよね。でも、全く話しが通じない相手っていう場合もあるじゃないですか。その場合、「ゼイリブ」とか「遊星からの物体X」みたいに殺し合いになって終了してしまうんですけど、ブランドンくんてちょうどこの中間くらいのキャラクターだなと思って、そこも凄く興味深いんですよね。だから、是非とも続編を作ってもらってブランドンくんが地球人とどう対峙して行くのかっていうのを見てみたいんです。トロマからディズニーっていう両極の様な文化を越境して映画作ってるジェームズ・ガンなら面白い続編作れると思うんですよね。

https://www.rakuten-movie.co.jp/brightburn/index.html

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