【映画感想】Mr.ノーバディ
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【映画感想】Mr.ノーバディ

『ジョン・ウィック』の制作チームによる"なめてた相手が…"系映画最新版ですが、今回の主人公は4人家族のお父さん。守るのは家族で、命のやり取りの世界に戻ってしまう理由は社会的ストレスを抑えられなくなったから。ここのところにとても共感しました。2016年公開のPOV映画『ハードコア』のイリヤ・ナイシュラー監督で、ボブ・オデンカーク主演『Mr.ノーバディ』の感想です。

今、現実の世界で様々なことを抑制されながら生きている中で、抑制されることにキレて暴れまくる主人公を観られただけでもそうとう痛快だったんですが、普通、この手の映画の主人公って、元凄腕の殺し屋とかなので(ていうか、殺し屋じゃないと人を殺すことに正当性を持たせられませんね。)、殺しがスマートなんですね。で、その普通の人だと思っていた相手が凄い殺しのテクニックを持ってるというところに驚きとカタルシスがあるんですが、この『Mr.ノーバディ』は、スマートじゃなさというか、ほんとに日常のいろいろに嫌気がさしていることが全てのモチベーションになっていて、その抑えつけられたところからの突き上げにカタルシスがあるんですよ。だから、よくある舐めてるやつらを返り討ちにするスッキリ感にプラスして、主人公の、毎週のゴミ出しに失敗しているダメオヤジ(つまり、僕らです。)が憂さを晴らしていることにスッキリするわけなんです。

なので、あの、『ジョン・ウィック』や『イコライザー』に比べて"俺の話"感がより強いんですけど、ただ、この主人公のハッチというおっさんだって元々は特殊工作員なので、そもそもの出自が僕らとは違うんですけど、この人はそこからドロップアウトしてるんですね。要するに裏の世界から自らの意思で降りてるんです。なので、重要なのはこの人が何者だったかではなく自らがそれを捨てて普通の生活を選んでるってことなんです(それを見越してなのか映画の中でも元何者だったのか説明しようとすると相手が聞いてないという状況が描かれますよね。)。で、それを言うなら『イコライザー』のロバート・マッコールさんだってCIAを辞めてホームセンターで働いてるじゃんてことなんですが、マッコールさんはCIAの職務をちゃんと全うして引退しているんですよね(更に引退してからも普通の生活をする裏で世直しに励んでいるわけです。)。ところが、今回のハッチさんは、単純に途中で嫌になっちゃったんです。「なんで俺こんな生活してるんだろ。もう嫌んなっちゃったな。普通の生活したいな。」ってことなんです。で、一生懸命普通の生活に馴染むよう頑張って、家族を持って、それを大切にして、そうすることで自分の人生にケリをつけようとしていたわけなんですね(「なんでゴミ出しひとつ出来ないの?」という奥さんの視線を感じながら。)。そうしたら、ある日、家に強盗が入るんです。もちろんハッチが本気を出したら強盗なんか目じゃないんですけど、そのふたり組の若い男女の強盗はいかにも切羽詰まった感じで、ハッチは、家族の安全の為にも大事にせずに帰らせようとするわけなんですけど、思春期の息子には何も出来ない腰抜けオヤジに見えてしまうんです。それで街に出たら、自分勝手に生きてる様なチンピラが幅を利かせてるわけじゃないですか。それでキレるんです。いや、つまりですね、一生懸命仕事に打ち込んで来た男が、ある時ふと「俺の人生これでいいんだろうか…」と思って、これからは家族の為に生きようと、良き夫良き父を目指そうとするんですけどどうも上手くいかない。家族の為にと思って選んだ仕事もパッとしない。これからの俺には一体何があるのか。と思って世間を見てみたら、権力を持つ悪いやつらが好き勝手やっていると。「はぁ?俺だってほんとはズゲェんだぞ。」(まぁ、ハッチさんの場合はほんとに凄いんですけど。)と。だから、これオヤジの逆ギレなんです。「お父さんも昔は悪かったんだぞ。」とか、「お父さんも昔はバンドやっててな。」みたいのの殺し屋版なんです。そりゃ、共感しますよね。本当は、普通のお父さんだって、そこで逆ギレして上司とか街で女の子に絡んでるチンピラをぶちのめせたらと思ってるんですよ(出来ないけど)。つまり、この映画は(それをやってくれる)全世界のお父さんの夢の具現化だと思うんですよね。

なので、(普通ではないんですけど、)普通のおっさんから大きく外れないというのがこの映画の白眉なところで。それがアクション・シーンでも表現されててですね。全然テクニカルじゃないんですよ。ハッチさんの暴力。とにかくキレてるので、力任せにぶん殴るとか、自分もやられながらカウンター的に相手にダメージを与えるとか、感覚的に(というか本能で)動いてる感じで、もの凄く雑でエモーショナルなんです。で、それがいいんですけど。あと、そういうハッチさんの性格と身体能力がある程度その家庭環境にあるっていうのがあって、それが父親役のクリストファー・ロイドとRZA(ウータンクラン)の登場によって分かるんですけど(このふたりが登場するところ胸アツです。)、最終的には親兄弟の協力と家族の理解に救われるっていうのも現実ではなかなかなさそう(若い頃パンクバンドやってたお父さんが定年近くになってまたパンクバンド初めても家族は無視というのが現実ですもんね。普通。)なだけに、これもお父さんの夢の具現化だと思うんですよね。

そして、何といってもしびれるのが、このハッチさんが『Mr.ノーバディ(誰でもない)』ってことなんですよね。この人、特殊工作員を辞める時に世間的には死んだことになっていて、この世界には存在してないことになってるんです。これ、もちろん、犯罪まがいのことしても罪に問われないということもあるんですが、逆に人々を救う様なことをしても世間的には抹消されるってことじゃないですか。"いてはいけない"じゃなくて"いない"存在なんです。個人的にはこの(普通のおじさんがいてもいなくても変わらない的な)虚無さにグッと来るんですよね。

https://www.universalpictures.jp/micro/mr-nobody

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【映画感想】とまどいと偏見 / カシマエスヒロ

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