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【映画感想】X エックス

はい、今年の夏はホラー映画大豊作なんですが、ということは、もう、世も末と言いますか、世の中が狂っている時にディストピアSFとかスプラッター系ホラーが流行るというのは常なわけです。ということで、『ヘレディタリー 継承』や『ミッドサマー』で新感覚のホラー制作には定評のあるA24制作のスラッシャー・ホラー『X エックス』の感想です。

えー、では、まず今年の夏にどれだけのホラー映画が公開されてるかといいうとですね。『映画雑談』でも紹介したネット怪談を映画化した『きさらぎ駅』があって、『透明人間』などのプラムハウスが制作した『ブラック・フォン』があって、容赦ない残酷表現が話題の台湾スプラッター『哭悲/THE SADNESS』があって、台湾ホラーと言えばもう一本、『哭声/コクソン』のナ・ホンジン監督がプロデュースした『女神の継承』もこの後に控えていますし、Netflixで配信されたモキュメンタリー・ホラーの『呪詛』も話題になりました。A24制作と言えば、まだ情報は羊ってことしかないのにもの凄く不穏そうな『LAMB/ラム』もありますね。で、極めつけは個人的にもの凄く期待している『ゲット・アウト』、『アス』のジョーダン・ピール監督の最新作『NOPE/ノープ』(NOPEというのはNOよりも強い否定の表現で生理的に受け付けないものに対する「無理!」みたいな意味のようです。ジョーダン・ピール監督のタイトルいつもいいですよね。)と。ね、話題になりそうなやつだけでもこれだけあるんです。しかも、これ、全部面白そうなんですよね。ブームに乗って乱発されてるのではなく、それぞれに作られた意図を感じると言いますか。ホラーというジャンルの成熟を感じますね。

で、じゃあ、この『X エックス』はどういう映画なのかってことですが、正直、予告を観た限りではルックも完全にそうだし、70年代末期(79年なんですけどね。この70年代最後の年で80年代に入る直前というのが、まぁ、ひとつ、メッセージではあると思うんですけど。)のテキサスが舞台で、5人の若者がバンに乗って、田舎の一軒家に向かうっていうオープニングは完全に『悪魔のいけにえ』なので、つまり、古き良きホラー映画をもう一度やろうというか、そろそろ『悪魔のいけにえ』の本質的な怖さというのをきちんと(現代風に解釈したリメイクやスラッシャーシーンを単に過激化した続編などではなく)踏襲したものを観せてくれるのかなと思っていたんです。ただ、それはそれでルックを忠実にマネしただけの単なるモノマネだったら…という不安もあったんですね(先鋭的なホラーを輩出してきたA24制作で『キャビン・フィーバー2』や『サクラメント』のタイ・ウエスト監督だったらそんなことはないだろうという期待ももちろんありましたが。)。

そしたらですね、『悪魔のいけにえ』的シニカルさや抒情性は最初だけで。それを舞台にしながら、(いわゆる70年代ホラーの)『悪魔のいけにえ』にはなかった"あからさまな残虐性"(つまり、80年代的スプラッター表現です。ここら辺が79年という時代設定の元かなと思うんですが。)を描くんです(が、それがないのが『悪魔のいけにえ』の持つ"本質的な残虐性"を描きながらもポップでアートだったところだと思うので。)。ただ、それは70年代とか80年代の古き良きホラー映画のパロディ(というかオマージュか。)に過ぎないと感じたんですよね(で、そのミックスが上手くいってるかと言われたらそうとも思えなかったんです。)。なんですけど、なんだか今までに感じたことのない嫌な感じ(誉め言葉です。)を感じるんです。この映画から。だから、ホラー映画的ではあるんですよ。もの凄く。なんていうか、わざと何も考えてない単に残虐なB級ホラー的にしてるというか、出て来るキャラクターたちがわざとよくあるホラーキャラクターを演じてるような…(若さと老いとか、そこに直結してくる性欲とか、承認欲求とかとか。そういうもっと深掘り出来そうなテーマをわざと表面的に描いてるように見えたんです。そこを深掘りしないことでホラー映画としての体裁を保ってるというか。)。そしたら、この映画、3部作の1作目なんですね。僕、全然知らないで観てたんですが、エンドロール後のある映像でそれを知ったんです。

つまり、この『X エックス』ではほぼ何も語ってないってことなんですよね。物語の結果だけ見せられて、なぜ、こうなったのかと言うミステリーはこの後の2部3部で描かれるってことなんです。それがエンドロール後の映像で明確になるので、そうすると、そこまでに感じてたモヤモヤが全部ワクワクに変わって、この映画中最も上がることになるわけなんですが(まぁ、確実にそうなるように作ってるんですが。)、そうやって思い返すと、何だか通り一遍で薄っぺらいなと思っていた殺人老婆のパールも、主人公なのにあんまり活躍しないなと思ってたマキシーンも、全然スラッシャー・シーンにならずにずっとポルノ映画撮ってんなと思っていた序盤のシーンも、全てに意味がありそうで…。あ、もう一回最初から観なきゃって気になるんです。あの、つまりですね。なんだか、もの凄くシンプルで(怖いし人間の嫌なとこ描いてはいるから観れるけど)特に何にもないなと思っていたB級ホラー(ただ、気づいたら裸のおばあさんが隣に寝てたらほんとに怖いなとは思いましたが。)が、壮大なホラー・サスペンスになりうる可能性があるってことなんですよ(これは未来への希望です。)。いやー、マジで続編がめちゃくちゃ楽しみです(ということで、もう一回観ますね。)。


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