ぶっ飛び回答!? 戦前の育児相談がヤバかった
いまを遡ること約100年前、『コドモノクニ』という子ども雑誌の「育児相談」ページに掲載された、母親の悩みである。
いつの時代でも、子どものすることなんて変わらないものだ。
何を隠そう、幼少期の筆者も、親に買ってもらったポケモンカードを何層かに剝ぐことを無上の愉しみとしていた。
まあ、それでも無事に社会生活ができているのだから、特に心配することはないのかもしれない。
と、「子どもが生まれたら新宿高校※に入学させる」という決意だけは固い29歳独身男性の私見はさておき、100年前の回答をみてみよう。
註 ※新宿高校は坂本龍一の出身校(ヤンキー校っぽい名前なのに、偏差値が高いのがかっこいい!)
100年も経てば、常識なんてすっかり変わってしまう。
どんな頓智気な回答が待ち構えているのか、非常に楽しみである。
回答者:霜田静志(教育家)
あれ? なんだか普通の回答だ。
「貴君のお子は、このまま育つと大日本帝国の臣民にそぐわぬ軟弱な精神の持ち主になるであらうから、木の枝でも与えておきませう」
的なものを期待していたのだが……。
当時の育児の感覚というのも、いまとそう変わらないのかもしれない。
気を取り直して、もう少し読み進めてみよう。
ん……? 「却って心配」か。
ちょっと言い過ぎな気もするけれど……。
きっと、この回答を読んだお母さんは、ほっと胸をなでおろしたことだろう。母親のワンオペ育児が当たり前だった時代、子育ての責任はほとんど母親に押し付けられた。「あなたの育児は間違っていない」と言い切ってくれる回答は、何よりも嬉しかったに違いない。
さて続きだ。
え? なんだって!?
金槌でおもちゃを壊す子どもを見守っていたのか!?
いまの5円とはわけが違う。巡査の初任給が15円だった時代である。
現代の感覚では、高めに見積もって8万円くらいになるかもしれない。
そんな高額のおもちゃを子どもに与えているだけでも驚きだが、破壊されゆく様を穏やかに見守っていたなんて。ちょっと考えられないほどに、素晴らしく余裕のある夫婦だ。
回答は、破壊行為を「知識探究の尊い萌芽」として、積み木や紙製の組み立て玩具(ペーパークラフト)を買い与えるように続く。途中のエピソードはさておき、この結論はかなり納得できるものに違いないが……。
とまれ、いくらおもちゃのピアノとはいえ、8万円である。
私が親だったとして、子どもに買い与えたキーボードを金槌で破壊されようものなら発狂ものだ。
というか、5歳にもなれば、それなりの分別がつくはずだ。「前途有望」どころか、回答者の子どもはロクな育ち方をしなかったに違いない。きっと、ダドリーみたいなイヂワルな小太りが完成したのだろう。
そう高をくくっていたのだが、いざ調べてみて驚いた。
回答者・霜田静志の御子息は、のちの物理学者・東京大学名誉教授の霜田光一氏だったのだ。
氏はレーザーの前身であるメーザー研究の基礎を構築し、レーザー分光学の推進にも貢献、勲二等瑞宝章まで受勲している。
そうか。子どもの伸びやかな探究心を大事にする霜田夫妻の寛容な精神が、偉大な物理学者を生み出したのか。
流石、英国で児童教育を学んだ専門家だ。ちんけな独身男性の私見とはわけが違う。
御見それしました……。
私も霜田夫妻に倣い、子どもができたら、家のあらゆるものを破壊させることにしたい。果ては新宿高校まで破壊してくれるだろうか。(円)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?