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マーガリンも”結晶”でできている

以前、チョコレートの結晶について紹介しました。

チョコレートをはじめとした油脂結晶は私たちの生活にありふれており、マーガリンもまた結晶の1つです。

いや、マーガリンって...と思われるかもしれませんが、マーガリンを作っている人たちは超真剣に作っているわけです。マーガリンだって丁寧に作らないとまっずいものができてしまうんですね。

そのおいしさの秘密はチョコレートと同様に結晶構造が握っています。

正直、私も文献を読んでみるまでは真面目に考えたことがありませんでしたが、実際に調べてみるとその複雑さがよくわかります。


マーガリンが結晶!?

パンなどに塗るあのマーガリンが結晶というと意外に思われるかもしれません。

しかしマーガリンもチョコレートと同様に油脂結晶の一種です

チョコレートでは、その結晶構造がくちどけ温度に関係しているという話でしたが、マーガリンも同様にその結晶構造がおいしさに関係していると知られています。

ちなみに油分が80%以上のものをマーガリン、80%未満のものをファットスプレッドと呼ぶそうです。私も初めて知りました。また常温で固体であるのはマーガリンが20%~50%の固体油脂結晶を含むためらしいです。

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https://www.meg-snow.com/products/detail.php?p=neosoftより引用
スーパーでよく見かけるネオソフトはファストスプレッドのようです

マーガリンもチョコレート同様、安定ではない結晶構造(準安定)が最もおいしく感じるくちどけや食感を実現するといわれています。つまりテキトーに作ると安定な結晶ができてしまうので、まずいマーガリンができてしまいます。

さらにマーガリンは調味料的な扱い方をします。冷蔵庫からマーガリンを出して口いっぱいにほおばる人なんてほとんどいませんよね。
板チョコ1枚食べることはできても、同じだけマーガリンを食べるのはちょっと厳しいです。

何が言いたいかというと、マーガリンは使っている間に低温(冷蔵庫)と高温(室温)を繰り返し経験してしまうのです。この温度変化は結晶成長につながります。

研究者たちは、この温度サイクルの中でどのようにマーガリンの品質が悪化するのかを調べて、よりおいしいマーガリンづくりに努めています。

マーガリンの結晶成長

昔から売られているマーガリンを今さら研究することあるのかと思ってしまいますが、どうやら価格や健康問題の観点から使う油が変更されているようです。昔は大豆油や菜種油が使われていたそうですが、パーム油が積極的に使われているようです。

しかし油の種類が変わるとその性質も変わってしまいます。そのため、絶え間ない研究が必要になるわけですね。

マーガリンは作られるときに急冷・練り合わせを行うことで準安定の細かな結晶を作り、それが網目状になっているそうです。さらにその網目構造の中に液体の油が含まれており、あの柔らかいマーガリンができます。

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参考文献[1]より引用

図中上半分の規則正しく模様が並んでいるのが結晶を意味しています。そして同時に、かなり複雑な階層構造を持っていることがわかります。

そんなマーガリンがまずくなる原因はチョコレートと同様に結晶構造が変わることで起こります。(多型変化)

先ほど書いた、冷蔵庫⇔室温を繰り返し経験するマーガリンの結晶構造を調べると、マーガリン中に油脂のうち安定になりやすいものから結晶構造が変わります。

一般的に結晶は周りに何もないとなかなかできないのですが、近くに似ている結晶があると容易に結晶が変化して安定な状態になってしまいます。そのため、安定化しやすい油脂を起点に徐々に結晶化が全体に広がっていきます。

結晶は次第に大きくなり、大切な網目構造を破壊して、マーガリンの性質を変えてしまいます。

一度、安定に(まずく)なってしまうと元のおいしい状態には戻りません。そのため、長期間、保存・使用しているとまずくなっていきます。


実はマヨネーズもよく似ている

マヨネーズって好きな人が多いですよね。
私はそもそも苦手なんですが、このマヨネーズもおいしい・まずいというのがあるのではないでしょうか?というより、マヨネーズが結晶化するともはやマヨネーズではなくなってしまいます。

マヨネーズは油と水が混ざったエマルジョンと呼ばれるコロイド状態です。しかし、マヨネーズを凍らせると結晶化が起こり、水と油が分離してしまいます。そして一度分離してしまうと、再びマヨネーズに戻ることがありません…

このサイトでは面白い実験がされています。

つまりマヨネーズにとって結晶化は大きな問題となるわけです。めったに凍らせることはないと思いますが、物が凍る(結晶化する)かどうかは中に含まれる内容によるので、物によっては冬に凍ってしまう場合もあるわけです。(おそらく市販されているマヨネーズは簡単に結晶化することはないと思いますが)

現在、マーガリンやマヨネーズといったコロイド系の結晶成長に関する研究は精力的に行われており、今後もそれなりに発展していくことになるでしょう。


最後に:おいしいって何だろう?

チョコレートとかマーガリンの文献を読んでいて一つ気になったことがあります。私たちは何をおいしいと感じているのでしょうか?

調べてみると人間がおいしいと感じるのは2つの要素があるようです。

・体に必要なもの(本能的に欲する糖分や脂質です)
・嗜好性にあったもの(これには経験などが関係しており個人差があるようです、コーヒーのように苦みがあるのにおいしいと感じるものはこれに当たるようです)

そもそも苦いものは人間にとって毒なので、まずいと感じるわけですが、経験を積んで苦くても害ではないと分かることで、食べられるようになります。そして成長に伴い苦みにも鈍感になります。(大人になってピーマンが食べられるようになるのは、こういう理由があるようです。)

ちょっと話がそれましたが、食感というのは、どちらかというと後者で、経験的に好きになるもののようです。

しかしそうするともう1つ疑問が生まれます。どうして人はくちどけが良いものをおいしいと感じるのでしょうか?
食べ物を合理的に食べるのであれば安定相であるまずいチョコレートやマーガリンをおいしいと感じてもおかしくないはずです。

これはどういうことなんでしょうか?
ちょっと調べてみると「くちどけ」は香りを広げる効果があるようです。香りがよいものはおいしいというのは何となくわかります。味は味覚だけでなく嗅覚や視覚も大事というのはよく聞く話ですよね。


物理は難しいけれど、「おいしい」ってもっと難しいですね!


参考文献

[1] Ashok R.Patel, Koen Dewettinck, Current update on the influence of minor lipid components, shear and presence of interfaces on fat crystallization, Current Opinion in Food Science, 3 (2015) 65-70.

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トップ画像はマーガリンかバターかわからない

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