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チョコも結晶でできている:おいしさは物理と職人の合わせ技

甘党なら、みんな大好きなチョコレート

そんなチョコレートのおいしさも科学で説明ができるんです。

ここではチョコレートと結晶成長に関して紹介したいと思います。


チョコレートが結晶?

結晶というと宝石や金属といった硬いものを想像するかもしれませんが、チョコレートも結晶の仲間です。

チョコレートの成分はカカオマス、ココアバター、砂糖、粉乳などが混ざったもので、このうち30~40%を占めるココアバターが結晶になります。

一般的に結晶は原子が規則正しく並んでいるものですが、今ではもう少し広く分子や粒子が規則的に並んでいても結晶と呼ばれます。チョコレートの場合は油脂(ココアバター)と呼ばれる長細い分子が規則正しく並んでいます。そのためチョコレートづくりと結晶成長は密接に関係しているわけです。

そしてチョコレートのおいしさはココアバターの結晶のでき方で決まるといわれています。


おいしいチョコレートを作るには

チョコレートを食べたとき、私たちがおいしいと感じる最大の要因の1つはそのくちどけ感です。
それでは、チョコレートのくちどけと結晶構造がどのように関係があるのでしょうか

チョコレートの結晶には、一般にI型~VI型までの6つの結晶構造があることが知られています。
同じ成分(ココアバター)がどれも規則正しく並んでいるのですが、その並び方が異なることを専門用語で多型といいます。

わかりやすい例では、ダイヤモンドと黒鉛(グラファイト)は、同じく炭素でできていますが、その並び方が異なります。多型を制御することは半導体工学や製薬といった分野にも重要な役割を果たします。

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同じ炭素でも全然違う

そして結晶構造(多型)の違いにより同じ原料でもくちどけ温度(融点)が異なります。私たちがおいしいと感じるのは、口内温度で融けるV型の結晶をもつチョコレートです。

しかし厄介なことに、ドロドロに融けたチョコレートを単純に冷やすとI~VI型の結晶がいろいろと出てきてしまい、V型のみを作るのは難しいんです。

さらに、V型を作っても放っておくと、いずれ最も安定なVI型のチョコレートになってしまいます。これは冷凍庫の奥で忘れ去れていたチョコレートの表面に見られる白い粉のようなものでファットブルームと呼ばれます。残念ながらV型チョコレートよりも味が劣ります。


職人の技テンパリング

V型チョコレートを作るにはコツがいります。
繊細なチョコレートづくりですが、ショコラティエと呼ばれる職人たちはテンパリングという技を駆使して最もおいしいV型チョコレートを作っています。

テンパリングとはチョコレートを作る際の温度調整です。

テンパリング2

まず初めに27~29℃ぐらいに冷やして、IV, V, VI型の結晶を析出させます(図中青の領域)。この時、IV型が最も多く出てくるようです。(I~III型は融点が低いので28℃ぐらいではまだ出てきません。)

しかし欲しいのはV型のチョコレートです。そのため、一度30℃ぐらいまで温度を上げて(図中赤の領域)、IV型のチョコレートを融かしてしまいます。この時、ある程度分子が集まった状態からのほうが結晶化しやすく容易にV型の結晶が得られるようです(融液媒介相転移)。ちょっと難しいですが、いきなり30℃に冷やしてIV型を避けようとするとV型も全然出てこないらしいです。そのため工業プロセスに乗せるには、はじめから30℃に冷やすわけにもいかず、ちょっと変わった温度制御をしないといけないようです。また、このとき理論上はVI型も出てこれるのですが、V型のほうが出てきやすいので問題ありません。

最もおいしい市販のV型のチョコレートを作るのがいかに難しいかわかりますね。

ちなみにとある雑誌に、”お家でチョコレートを融かして成型するとき、おいしく作りたければ、元の板チョコを削ったものを一部融かさずに残しておいて固める前に入れることで、結晶構造(多型)を制御できる”と書いてありました。

これは種結晶法と呼ばれており、半導体やタンパク質など多くの結晶成長に利用されている方法です。

確かに理にかなったやり方なんですが、物理的にみるとそれって元の板チョコでいいのでは?とも思ってしまうんですよね…素人がチョコレート融かして成型すると自由な形を作れるのに、結晶構造は最もおいしい状態からからかけ離れてしまうなんてなんとも悲しい話ですよね。


最後に

チョコレートの結晶の話は結構有名な話なので、ググってみるともっと詳細な説明が出てきます。

調べてみると分かるんですが、このチョコレートの結晶構造解析がかなり本気の手法でして、X線構造解析をやってる身としていろいろ参考にしたいなと思いますね。

ちなみにチョコレートだけでなくマヨネーズやマーガリン、ココナッツオイルといった食品も油脂の一種であり、これらの研究も真剣に行われています。

私たちが普段おいしい食事ができるのも、研究の賜物なんですね。

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