【超撥水】絶対に水に濡れないトビムシの秘密
みなさんはトビムシという昆虫を知っていますか?
その名の通り飛び跳ねる様からトビムシという名前がつかれているあまりなじみのない虫です。ちょっと調べてみると害虫として、駆除の仕方などが検索結果に上がってきます。
そんなトビムシですが、実は世界の撥水業界・表面科学の世界を揺るがす面白い特徴を持っているんです。
今回はそんなトビムシが獲得した水を操る特殊な体表面の世界を一緒に見ていきましょう。
トビムシの表面の秘密
冒頭で少し紹介した通りトビムシは決して濡れません。雫や雨に当たっても濡れないどころか、水に落ちても濡れません。(科学において絶対はありませんが、私たちの常識から考えるとほぼ絶対といっても良いでしょう)
それにしても水に落ちても濡れないって、字面だけ見ると意味不明ですよね。でも文字通り濡れないんです。
例えば、水面に落ちると、体表が水をはじきすぎるためアメンボのように水面に浮くことができます。トビムシの中には水面で飛び跳ねて移動することもできるんです。人間からしてみれば水の上を歩けるってうらやましいですよね。
それでは、沈んだらさすがに濡れるだろうって思いますよね。私たちだってプールに飛び込んで濡れてないなんてことはありませんからね。
ところが、トビムシは沈んでも濡れません。もうわけがわからないですが、体表の特殊な構造により水をはじきすぎた結果、体の周りに薄い空気の層を形成し、溺れずに沈むことができるようなんです。なんなら、油に沈んでも同様に空気の層に守られて濡れないんです。
トビムシに着想を得た研究
さて、トビムシの体表にはいったい何が秘められているのでしょうか
トビムシの表面にはクチクラ(キューティクル)という膜があり、そこには目には見えないほど小さなサイズのナノ構造が隠されています。クチクラ自体はそれほど珍しいものではなく、むしろ一般的なものですが、その構造が特殊なんです。
トビムシの体表のナノ構造をよく見てみると小さな凹凸がたくさんあることがわかります。こう見ると少しわかりにくいですが、とても精密なキノコのような構造がナノスケールで並んでいるんです。
このナノ構造はハスの葉が水滴をはじいて転がすのと同じ原理で水をはじくことができます。
そもそも水に濡れるということは、水が表面にべたっと張り付いていく状態(固体と液体が接している状態)のことをいうんですが、ハスの葉やトビムシのクチクラの表面に見られる微細な凹凸は水が張り付くのを防ぎ、真ん丸の水滴のままにしておく効果があるんです。
下図に示すように、水の表面張力に対して十分小さな構造があると、そこに水が流れ込めず、わずかな空気の層ができます。この空気の層があることで、体表(固体)と水(液体)が接するのを極力防ぎ、水が水滴となった結果、濡れることがなくなるんです。
この現象はハス(ロータス)の葉から名前を取ってロータス現象と呼ばれており、身近なところではヨーグルトのフタなどに使われているやつですね。
そして、有名なハスの葉よりもさらに強力な撥水性を持つのがトビムシというわけです。このトビムシが持つあらゆる液体を寄せ付けない超撥水表面をオムニフォビック表面というそうです。
この微細な凹凸を持つオムニフォビック表面は水だけではなくアルコールや油といった様々な液体をはじく効果があります。正直信じられませんが、超すごいというのは感じられるのではないでしょうか。
それではトビムシの表面についてもう少し詳しく見てみましょう。
トビムシの表面はただの凹凸ではありません。というのも、よく見てみると小さなキノコのような形であるT字型をしたナノ構造がたくさんついていることがわかります。
このT 字型(キノコ型)であることがかなり重要で、この特徴的な構造が体の表面にナノレベルの空気の層を保持してくれます。ナノの世界になるとキノコの傘の下に水が入り込めないという理屈になります。その結果、 ただの凹凸では実現できない超撥水を実現するわけですね。
このような特殊な体表面をもつことから、トビムシは濡れないどころか溺れず、水面を移動できるという人間からすると驚きの能力を持つんです。
最後に
トビムシの持つオムニフォビック表面は非常に面白く、現在多くの研究者たちがこの構造を人工的に作れないかと頑張っています。今回は紹介できませんでしたが、今後いくつかトビムシを模倣したバイオミメティックマテリアルを記事にしていきたいと思います。
超撥水をはじめとする水と空気を操る技術は意外と奥の深い世界です。しかも人間よりも自然の方が進んでいるというとっても面白い分野です。実は、人間よりも上手に水を操る生き物はトビムシだけではなく細菌やクモなどもいるので、そちらも今後併せて紹介していければと思います。
参考文献
The springtail cuticle as a blueprint for omniphobic surfaces
今回はレビュー論文をもとにいくつかの論文を読みながら作成しました。レビュー論文の元になった論文たちはこれから随時紹介していきます。
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