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【カソードルミネッセンス】電子ビームで半導体の中身を見る方法

石に光をあてると暗がりでボヤっと光る蛍光(ルミネッセンス)という現象が今では半導体の品質を確かめる方法に使われているという話を以前紹介しましたが、実は他にもこのようなルミネッセンスを使った手法というのは私たちの生活を支えてくれているんです。

今回はフォトルミネッセンスに続き、カソードルミネッセンスという手法について紹介したいと思います。

カソードルミネッセンスとは

カソードルミネッセンスとは、電子ビームで固体内の電子を励起し、その際に生じた正孔と電子が再結合するときの発光のことです。

といっても、何がなんだかわからないですよね。理系の専門の方はこれである程度なるほどとなるかもしれませんが、そんな人は一握りのはずです。
それでは、もう少しかみ砕いて説明していきましょう。

以前紹介したフォトルミネッセンスも同じなんですが、まずは物質の構造について理解しておかなければなりません。

あらゆる物質は原子から構成されており、原子は原子核と電子によってできています。つまり私たち人間も含めてすべての物質は電子を持っているといっていいでしょう。

そして、その電子は原子核の周りを漂っているんですが、どの辺にいるのかというのは物質ごとにある程度決まっています。

この電子が動ける位置を理解するための概念をバンド構造といいます。中でも原子が規則正しく並んだ結晶の世界では、このバンド構造を理解することで、電子の位置がわかり、同時に結晶の性質もわかるんですね。

さて、だいぶ遠回りしましたが、ここからはもう少しスコープを狭めて半導体を例に考えてみましょう。

半導体は状況に応じて電気を通したり通さなかったりする結晶のことです。パソコンやスマホに必ず使われている現代社会で最も重要な材料の1つですね。

そんな半導体に電子ビームを照射して刺激してやります。すると半導体内部の電子はその刺激によって活性化(励起)します。

これはバンド構造でいうと電子の動きが鈍い価電子帯から、電子が良く動ける伝導帯に移るということになります。難しいのですっ飛ばしてもOKです。

とにかく、外から電子ビームで半導体を刺激してやると、内部の電子がちょっとだけ元気になります。しかし、活発になった電子はすぐに元の状態に戻ろうとするんです。

素材によっても時間はまちまちですが、活発になった(励起した)電子は一定時間後に元の状態に戻ります。その際に発する光をカソードルミネッセンスといいます。

科学的に言うと電子線照射時に励起した内部電子が、同時に発生した正孔と再結合し、その際に発する光がカソードルミネッセンスというわけですね。

カソードルミネッセンスで何がわかるのか?

さて、カソードルミネッセンスが何となくどんなものなのかわかったかとおもいますが、それがいったい何に使えるのでしょうか?

実は、カソードルミネッセンスは半導体の品質を調べるのによく使われています。

半導体の品質の1つに原子の位置がずれた欠陥や不純物の存在があるんですが、これらがあると半導体チップの性能が一気に落ちてしまうため、メーカーは製造時にに何とかして欠陥を探し出してやらなければなりません。

半導体の種類によって、カソードルミネッセンスの出てくる時間や波長などいろいろと異なります。これは半導体内で電子が動ける領域が種類によって異なるためです。(バンド構造の違いとも言えます。)

ここで半導体の中に原子の位置がずれた欠陥や余計な不純物などが紛れ込んでいると、その場所では電子の動きやすさに違いが出てきます。

このちょっとした違いを検出できるのがカソードルミネッセンスというわけですね。

カソードルミネッセンスを上手に検出してやれば、原子がきれいに並んでいるエリアとずれてしまっている欠陥のエリア(取り除きたいエリア)を区別することができます。

JEOLのウェブサイトから引用 左:TEM像、右:カソードルミネッセンスマッピング

顕微鏡を使ってもなかなか調べることのできない半導体内部の情報もカソードルミネッセンスを使えば取得することができます。

このような点から半導体製造においてはカソードルミネッセンスを利用した評価手法というのは用いられており、今もない大学の研究機関で更なる検出方法の改良などが行われているんです。

最後に

今回は普段絶対に馴染みのないカソードルミネッセンスについて紹介しました。

私たちの人生に何の影響もないようなものですが、実は自由にスマホやパソコンが使えるのもこのような技術が発展したおかげといっても過言ではありません(私はそう思います。)

もし興味があったら、自分で調べてみても面白いかもしれませんね。

参考


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