結晶の鎧を持つアリ
私たち人間の皮膚はやわらかいですが、動物の中には固い皮膚や鱗を持ったアルマジロやセンザンコウといった生き物がいます。しかし彼らもあくまで体の一部が固くなっているだけですね。
一方で、世の中にはもっと奇妙奇天烈な生き物もいます。
それが今回紹介する結晶を体にまとい鎧として使うアリです。まるでファンタジーの世界に出てくる昆虫ですね。
鎧を持つアリはその生態も面白い
鎧を持つというだけでも面白いんですが、そもそも今回紹介するAcromyrmex echinatiorというアリはハキリアリの一種で葉っぱを切って運搬する変わった生き物です。
さらに驚きなのが、切って運んだ葉っぱをどうするのか?
実はハキリアリは葉っぱに菌類を植え付け、それを栽培して栄養を取るというとても変わった生き物なんです。要はアリがキノコを栽培しているってことですね。
ただでさえ変わったハキリアリの仲間には体にまがまがしい鎧を付けるやつらがいるんです。学名だとわかりにくいので、今回は鎧アリとしておきましょう。
写真で見るとまがまがしいイメージですね。
鎧アリの秘密
鎧アリの表面には通常昆虫で見られるクチクラのその上にマグネシウムリッチなカルサイトと呼ばれる結晶が無数に見られます。
このカルサイトとは、貝殻などの主成分である炭酸カルシウムと同じで、その成分にマグネシウムが多く混じったような結晶です。
それではどうしてそんな鎧を体につけることができるのでしょうか?
研究グループの分析によると、昆虫が一般的に持つクチクラ層の外側にある表層クチクラ(エピキューティクル)に秘密があったようです。
この表層クチクラにはタンパク質があり、それが環境のカルシウムやマグネシウムから表面に結晶の鎧を育てる要因になっていたようです。
実際に、鎧アリのタンパク質ありの表層クチクラ、タンパク質を壊したクチクラ、金属コーティングしたクチクラをそれぞれ実験室でカルシウムやマグネシウムの溶けた液体の中に浸したところきれいに結晶が育ったのはタンパク質が残っており、余分な金属コーティングがされていないものだけだったようです。
つまり、この結果から表面のタンパク質が重要な働きをしていたことが分かったわけです。
ちなみに、この鎧は幼虫の頃にはあまり育たず、大人になると鎧が育ってくるようです。これはちょうど、鎧アリが外で労働するぐらいになった時にちょうどよく鎧ができてくるようですね。
鎧の効果
それでは実際に鎧にはどんな効果があるのでしょうか。
鎧というのだからやっぱり防御力が強いのかな?って思いますよね。確かにその読みは正しく、他のアリやハチに比べても圧倒的に強い強度を示したようです。
そして、実際にアリ同士の戦争になった時の生存率も高いことがわかりました。この結果って想像道理ですけど面白いですよね。彼らは考えて鎧をまとっているわけでもないのに進化の過程で鎧を持つアリが生き残るってロマンを感じます。
さらに、鎧の効果は単に防御力が強くなるだけではありません。
鎧があることによって菌への耐性があがります。
もともと菌類を育てているアリですが、菌の中にはアリを宿主として支配して殺してしまう種類もあります。
そのため多くの生物はこのような菌類の侵略を防ぐべく水を寄せ付けない表面などを獲得したわけですが、この鎧アリも同様に鎧があることで菌の侵略を防ぐことができるようです。
実際に、菌を付着させる実験をしたところ結晶の鎧を持たないアリは4日で死んでしまうところ、鎧アリはさらに2日長く生存することができました。そう聞くとちょっと短いような気もしますが、多少なりとも効果があることはわかりますね。
最後に
今回はマグネシウムリッチなカルサイトを鎧にするアリについて紹介しました。世の中には、私たちが想像しないような生き物がいるのがいつも驚きです。
特にカルサイトを体にまとう生き物は貝殻やウニなどの海の生物が多いイメージですが、昆虫にもそんな種類がいるのは新たな発見ですね。
そして、この鎧アリの研究が私たちの生活に役に立つのか?というところですが、このような生き物は低温で結晶を作る技術に長けています。私たち人間が電気や燃料を使って高温で製造しなければならない結晶を、いとも簡単に常温(25℃ぐらい)で作り上げてしまうのです。
究極のエコ、流行り言葉でいえばSDGsやらといったところで表される素晴らしい特徴を人間の知恵を使って学び取っていこうというわけですね。
参考文献
Biomineral armor in leaf-cutter ants
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