Erika Azuma

書評を活動の中心に置いた物書きです。ノンフィクション関係が得意です。新刊ノンフィクショ…

Erika Azuma

書評を活動の中心に置いた物書きです。ノンフィクション関係が得意です。新刊ノンフィクション紹介サイトHONZ副代表。しばらくは個人備忘録

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    ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ

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小説家が”覚悟”を決めて描くとき

ご本人に確認したわけではないし「そんなつもりはない」と言われるかもしれないけれど、この小説を書くのには勇気がいっただろうなあと思う作品に出会うことがあります。最近だと芦沢央さんの『夜の道標』にもそんな感想を持ちました。社会的に目を逸らしてはいけないけれど、胸の中で善悪がせめぎ合い小説として完成させるのは難しい。そこにトライして結実させた作品が好きです。 桂望実『息をつめて』もまた、書くまでに迷ったんじゃないかなあと思う作品でした。世間から怯え、隠れて生きる50代の女性に何が

    • 祝!直木賞『地図と拳』もっと知りたいという誘惑に、あなたは勝てるか?

      アマゾンの書影でもすでに「直木賞受賞作」の帯が巻かれていました。今回の直木賞選考会前、書評家たちの間でも『地図と拳』があたま一つ飛びぬけているという評判でしたので、おどろくことではないのでしょう。この厚さが苦になることなく、一気呵成に読ませる腕力は只者ではない、それはわかっていました。 五国協和を目指すというスローガンのもと、約50年刊存在していた満州国の中に、架空の町を作り、そこで起きるフィクションの積み重ねでノンフィクションより現実的な歴史と風景をみせるという離れ技。ま

      • 日本人義肢装具士・ルダシングワ真美さんからの手紙

        書店で出会った本が思わぬ大きさで世界を広げてくれることがあります。 私の読書日記によると、この本を購入したのは2019年10月7日の事。棚ざしになっていたこの本が私を呼び止めたような気がしました。そういう本はだいたい当たりなんです。経験に裏打ちされた選本眼には自信があります。そして本当に名著でした。総ふり仮名で子供でも読める、そういう造本になっています。 ある日本人女性が、病気で足が不自由になったルワンダ人の男性に恋をしました。彼の義足を作るために義足製作の修業をして結婚

        • 一日必冊 2022年ベストノンフィクション

          ベスト小説を出したら、やはり私の得意分野であるノンフィクションもお知らせしなくてはなりませんね。ただ、年末近くになって、すごい作品が次々に上梓されたので、まだ読みきれておりません。近刊のレビューはぜひHONZ の記事をお読みください。『黒い海』、すごいです。 昨年末、各媒体に発表したベスト本は以下の通りです。 ダ・ヴィンチ「BOOK OF THE YEAR」 本読みのプロが厳選!とっておきの今年の3冊 国内ノンフィクション 花村萬月『ハイドロサルファイト・コンク』 澤宮

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          一日必冊 極私的2022年ベスト日本小説

          昨日(2023年1月4日)が第20回本屋大賞第一次投票の締め切り日だったようですね。どんな作品がノミネートされるのか、毎年とても楽しみにしています。 2022年、私が読んだ日本の小説のベスト10を出してみました。とはいえ、小説は70冊くらいしか読んでないし、そもそも手に取るジャンルが偏っており、新人作家、女性作家優先という自分の決まり事みたいなものはあります。結末が腑に落ち読後感の良い作品が好みです。 【2021/ 12~2022/11 順不同 単行本で発売されたものに

          一日必冊 極私的2022年ベスト日本小説

          一日必冊 「スポーツを見る」ということ

          正月恒例といえば箱根駅伝だ。はるか昔、親戚一同が集まって正月祝いをしているなか、テレビは駅伝をうつしていた。何人かは食い入るように見ていて、その中には姑も混じっていた。 2023年の二日、なんとなくテレビを付けたら箱根駅伝が始まったところだった。見るともなく見ていたら、学生連合の選手が飛び出し後続を話していく。目が離せなくなってそのままつけっぱなしにしていた。 年末に、友人が講師をしている駒澤大学で授業をさせてもらった。「本を読むということ、それを紹介するという仕事」とい

          一日必冊 「スポーツを見る」ということ

          一日必冊 人の身体って不思議だ!

          昨年末、いろいろな事情でゆっくり原稿を書く余裕がなくなってしまった。読むのは移動中でも布団の中でも読めるのだけど、書くのはまとまった時間が必要で、それがとても難しかったのだ。 でも「この本、面白いよ」と発信したい。その1冊目がこの『運動しても痩せないのはなぜか』だ。 この5年ぐらい、ずっと不思議に思っていたことの理由が書いてあった。スポーツクラブにはほぼ毎日通い、一日1万歩は歩き、糖質も気にしているのになぜ痩せぬ?スマホのアプリでレコーディングダイエットも始めたけど、「1

          一日必冊 人の身体って不思議だ!

          一日必冊  氏神さまへ初詣

          川崎市の北にある自宅近くには大山街道という古い道が通っている。そのせいか、伝承や古来からの儀式が残っている。しかし住み始めて10年くらいはそんなことは全く知らなかった。 2010年ごろ、「オオカミの護符」というドキュメンタリ映画を観た。本の表紙にあるこの黒い犬のお札は畑や商店の店先で時々見ていた。この由来を古くからこの地に住むドキュメンタリプロデューサーが作ったものだ。 驚いた。こんな豊かな歴史があったのか。それを知らずに私はこの上で暮らしていたのか。だから手紙を書いた。

          一日必冊  氏神さまへ初詣

          一日必冊 2023.1.1 日曜日

          noteを2023年から新たに始めます。 とにかく最近よく忘れてしまうので、読んだ本、買った本、観た映画や演劇などの雑記録の備忘用です。 2023年元旦は二子玉川駅に初日の出を見にいきました。昨年10月に連れ合いが原因不明の病に倒れ入院中なので、とにかく不安でたまりません。祈れるものには何でも祈りたい。初日の出を見るのも人生初めてです。 夜明け前に到着すると、やはり有名な場所なんですね、結構な人が集まっていました。とはいえ混雑、というほどもなくホームに横一列で並べるくらい

          一日必冊 2023.1.1 日曜日

          読了1 『親も自分もすり減らない!? シングル介護術』

          2021年、明けましておめでとうございます。放置していたこのnoteをあらためて読書記録としてあらためて始めることにしました。 2021年最初に紹介するのはめったに読まない実用書です。 「介護は突然やってくる」という法則そのままに、年末から始まった母親への介護。初心者は戸惑うことばかりで心細いのを助けてくれた本は、年明けとともに読了したさらだたまこ『親も自分もすり減らない!?シングル介護術』(WAVE出版)https://amzn.to/3rNTuP3 独身の著者はひと

          読了1 『親も自分もすり減らない!? シングル介護術』

          「寝たきりにならないリフォーム」(神戸新聞「随想」第7回)

          2019年のお正月、夫の母と何のこともない会話の中で、家の大改造の計画ができました。米寿を迎える母が快適に過ごすためには、どんな選択肢があるのか。足腰は弱っているものの、幸い生活に困ることはない。なら何がベターなのか、をゆっくり話し合いました。できるようで意外とできないことだと思います。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 元気の源は、やはり食べることにある。米寿になっても何でもおいしそうに食べる母をみると、食は何より大切だと実感する。 神戸市の補助金で

          「寝たきりにならないリフォーム」(神戸新聞「随想」第7回)

          きっかけはダイニングテーブル(神戸新聞「随想」第6回

          ここ数年、喪中はがきがとても多い。同じ世代の友人・知人たちの親たちが、そろそろ鬼籍に入る時期になったのだと思う。親と自分たちの生活をどうするか、と言う話はよく話題になる。特に片親になった場合、病気やケガでもなければ、本人の意思を尊重したいと思う。私たちが決断したのはリフォームだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 平成最後の大晦日、米寿を迎える母は、大掃除が手抜きになった言い訳に「椅子が重いんやもん」と嘆いた。それはそうだ。24年前、震災の年に新

          きっかけはダイニングテーブル(神戸新聞「随想」第6回

          私のオススメ本『神戸・続神戸』(神戸新聞「随想」第5回)

          「神戸」と言う町は「異国情緒」とか「ハイカラ」というイメージを纏っています。現在では、イメージだけが残っているみたいですが、戦前、終戦直後は当たり前のように外国人と共存していた町だったと古くから住む人は教えてくれます。 神戸を紹介するガイドブックはたくさんありますが、かつてのエキゾチックな雰囲気を伝える本はそれほどありません。この本は新しく神戸にお住まいになる方にはぜったいのオススメ本です。神戸新聞「随想」5回目です。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

          私のオススメ本『神戸・続神戸』(神戸新聞「随想」第5回)

          贔屓のお店(神戸新聞「随想」第4回)

          阪神淡路大震災で、夫の両親の家は全壊しました。舅は戦後、自分の母親と妹とともに福井から神戸に出てきて、川崎製鉄の工員となり、小さな家を建てたことを誇りにしていました。その家が目の前で崩れ落ちたことは、彼にとってどれくらいショックだったでしょう。私にとっては感謝してもしきれないお店の物語です。 神戸新聞「随想」連載の4回目です。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 震災の後、いわゆる「災害ユートピア」的な興奮が薄れると、精神的な荒廃が来た。被

          贔屓のお店(神戸新聞「随想」第4回)

          大震災の記憶(神戸新聞「随想」第3回)

          阪神・淡路大震災から25年が経ちました。あの時の記憶は、かなり加工されながらも私の脳裏にはっきりと残っています。その思いを神戸新聞の「随想」第3回目につづりました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 台風15号により甚大な被害を受けた千葉県の様子は、阪神・淡路大震災直後の神戸の街を思い出させた。 1995年1月17日早朝、私の母の電話でたたき起こされ、テレビをつけて驚愕した。神戸市内の状況を知るため、そのまま2日間そこを動けなかった。 携帯電話もイン

          大震災の記憶(神戸新聞「随想」第3回)

          川越宗一『熱源』162回直木三十五賞受賞作

          大方の下馬評通り、川越宗一『熱源』が直木賞を受賞しました。発売当時からスケールの大きいストーリーが本好きを魅了した作品です。 公明新聞で連載中の「ちょっと気になる」で私も紹介しました。ネットでは読めないようですので、こちらで公開します。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『熱源』の主人公はふたりいる。 ひとりは樺太(サハリン)生まれのアイヌ、ヤヨマネクフ。後に和人の中で暮らすために山辺安之助とも名乗りアイヌのための学校「土人教育所」を設立した立役者である。

          川越宗一『熱源』162回直木三十五賞受賞作