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祝!直木賞『地図と拳』もっと知りたいという誘惑に、あなたは勝てるか?

アマゾンの書影でもすでに「直木賞受賞作」の帯が巻かれていました。今回の直木賞選考会前、書評家たちの間でも『地図と拳』があたま一つ飛びぬけているという評判でしたので、おどろくことではないのでしょう。この厚さが苦になることなく、一気呵成に読ませる腕力は只者ではない、それはわかっていました。

五国協和を目指すというスローガンのもと、約50年刊存在していた満州国の中に、架空の町を作り、そこで起きるフィクションの積み重ねでノンフィクションより現実的な歴史と風景をみせるという離れ技。まさに傑作だと私も思っていましたから受賞はとても嬉しかった。

昨年7月に通信社を通じた書評を、私も各地方紙に掲載しています。630ページを超える小説を800字にまとめるなんて土台無理なことだとわかっていますが、少しでも魅力を伝えようと努力だけはしました。

デイリー東北

さて、問題はここからです。私はもっと満州国について知りたくなりました。私の世代では、祖父母や親の代で、命からがら満州から逃げてきた親戚がいました。その中の一人は楽しかった思い出をよく話してくれていたのですが、いかんせん、私が幼すぎてよく覚えていないのが残念です。そのおじさんは、なぜかいつも生魚をお土産にくれたことだけはよく覚えています。内陸で生活していたころ、海の生魚が食べたかったのでしょうかね。

満州国のノンフィクションでは開高健賞を受賞したこの本も印象的です。


HONZでは麻木久仁子刀根明日香がレビューしているので、ぜひ読んでみてください。

私も単行本発売当時、小説すばるに以下の書評を寄せました。少し長いですが引用します。

「青雲の志」という言葉は、徳を磨き立派な人物を目指し、行く末は立身出世を夢見る若者によく使われる。だが、本当に「青雲の志」を持つ青年は滅多にいるものではないし、簡単に叶えられるものでもないだろう。
 
だが、そんな青年たちの物語は私たちの心を熱くする。夢にたどり着けなかったにせよ、初心に抱いた真っ直ぐな心情はまぶしい。
 
第13回開高健ノンフィクション賞の受賞作『五色の虹』は「青雲の志」を抱いた青年たちの心と、50年後の物語である。
 
1931年、満洲事変が起こり、それを契機に満洲国が建国された。清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀を元首とし、実質は日本の支配下となる。北と東はアムール川とウスリー川を隔ててロシアと接し、南は鴨緑江を境に朝鮮半島、西には大山脈の向こうにモンゴルという場所にあった。
 
この地に文化系最高学府として「建国大学」が設立されたのは1938年。民族協和を建学の精神とし日本人・朝鮮人・中国人・モンゴル人・白系ロシア人の優秀な学生を集めて共同生活をし、将来の満州国の指導者となるべき人材の育成を目指した。授業料・生活費すべては官費で賄われるという条件から、創立時150名の募集に対し、2万人の志願者があった。だが1945年、終戦によって満州国が瓦解し、この大学も消滅したのだ。
 
新聞記者である三浦英之が建国大学の名前を聞いたのは2010年のこと。敗戦後、ソ連軍の捕虜になり中央アジアで強制労働をさせられたという男性の向学心がとても強いことに驚嘆したのだ。85歳になった今でもロシア語の勉強を続けるのは、いつまた来るかもしれないロシアとの軋轢を警戒してのことだという。そしてこう明かしたのだ。
「私はこれでも建大生の端くれですから」
 
その後「幻の大学」と呼ばれる建国大学について少しずつ調べ始めたが、資料がほとんど存在していないことを知る。
 
たまたまその年に、最後の同窓会が東京で行われた。三浦はその場に赴き、出席者の姿をカメラに収める。彼らは間違いなくスーパーエリートであった。合格率1%に満たない超難関を越え、満州国が国是とした「五族協和」を目指した若者であった。
 
しかしその後の過酷な運命は国により、立場により全く違ったものとなる。その足跡を求め、生き残っている建大生の力を借りて、三浦は、日本国内はもとより、中国、韓国、モンゴル、台湾、カザフスタンへインタビューの旅に出る。それは、何者かが三浦に架した使命のようにも思えた。

あの戦争に触れることを嫌う民族がいまでもいる、そのことに驚かされる。彼らが人生最後に語りたいということを、しっかりと受け止めたいと強く思う作品であった。

『地図と拳』を読んだ後、さらに満州を知りたいという欲求が高まりました。満州についてはいろいろな本が出ていますが、検索を続けていたら一冊の本に辿り着き、どうしても欲しくなってしまいました。でも古書界隈ではものすごく高価で手がません。ある日、普通のオークションに出ていたのを発見!十分に私が買える値段で手に入りました。

直木賞受賞の報を聞いて、取り出して眺めています。これからもきっとそうするでしょう。いろいろな発見もするに違いありません。一冊の本は、いつも知らない世界を広げてくれのです。



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