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HONZ

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ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ
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2011-2024 この13年間における最高の一冊

2011年7月15日にオープンしたノンフィクション書評サイトHONZ。本日2024年7月15日をもちまして13年間のサイト運営に終止符を打つこととなりました。 2011年の東日本大震災から、記憶に新しいコロナ禍まで。はたまたFacebookの時代からChatGPTの到来まで。その間に紹介してきた記事の総数は6105本。 発売3ヶ月以内の新刊ノンフィクションという条件のもと、数々のおすすめ本を紹介する中で、様々な出会いに恵まれました。信じられないような登場人物たち、それを軽

学生メンバー応募レビュー『市場対国家』

HONZ学生メンバー合格者が応募の際に書いたレビュー。最後は刀根明日香さんのレビューです。 ※2012年1月18日当時のものです。 政治家ってどんな人? 日本の政治家みたいにどうせ国家議員の息子が国家議員になるのでしょ? その中から首相が生まれるのでしょ? だから日本なんて変わりっこないのね。私が高校まで持っていた政治のイメージは、ニュースを観るようになった今でも変わらない。いくらCHANGEを叫んでも、民主党が喜んでも、私には遠い世界。政治経済学部の大学生がこんなこと言っ

地方と出版、未来への希望『RICE IS COMEDY(ライスイズコメディ)』 

「お腹すいたなあ……」 ラーメン店の長い列に並ぶ人たちをぼんやりと眺めながら、つぶやいた。2024年2月、小豆島にあるヤマロク醤油で行われた木桶サミットの会場で、私は本を売る店番をしていた。視線を机に並べた本に落としたその時、すっと横から、真っ白なおにぎりが2つ入った容器が私に差し出された。びっくりして顔を上げると、隣に出店していたお兄さんがにっこりと笑って、元気よく「どうぞ!」。 これが、滋賀県北部、ちょうど琵琶湖の北の端あたりの西浅井を拠点に地域おこしをしているグルー

『死の貝――日本住血吸虫症との闘い』奇病撲滅に挑んだ人々の生きた証と、罪なき貝の悲劇

天正10年(1582年)、甲斐の名門戦国大名・武田家が織田信長の軍に攻められ、今まさに滅亡しようとしていた。追い詰められた武田勝頼に、律義にも暇乞いに来た足軽大将がいた。 その足軽大将・小幡豊後守の腹部は膨れ上がっていた。「水腫脹満」とは古くから農民を中心に甲府盆地の人々を悩ませてきた、太鼓腹になってやせ細り、やがて死に至る病であった。 しかし次第に、これに似た病が日本全国に点々と存在することが明らかになってくる。本書はこの奇病を克服しようと原因にせまり、その原因を断つべ

『あなたがあの曲を好きなわけ 「音楽の好み」がわかる七つの要素』「好みの違い」はこわくない

音楽は好きでも、音楽の話をするのはわりと苦手だったりする。 自分が微妙だと思うアーティストを好きと言われたら返答に困るし、一見好みが近いように見えても実は「良い」と感じているポイントが全然違って噛み合わないこともある。 同じ曲を聴いても、人によってなぜこれほど感じ方が異なるのか。自分が大好きな曲があの人の琴線には触れず、あの人が最高だと言う曲はなんだかピンとこない理由はどこにあるのか。そんな謎を解くヒントを授けてくれたのが本書である。 聴き方の違いとしてときどき目にする

山本義隆著『ボーアとアインシュタインに量子を読む』を読む

山本義隆さんといえば、毎日出版文化賞と大仏次郎賞をダブル受賞した『磁力と重力の発見』をはじめ、『十六世紀文化革命』や『世界の見方の転換』など、浩瀚な科学史の著作がまず頭に浮かぶ。だから、このたびの『ボーアとアインシュタインに量子を読む』も、量子物理学の歴史の本なのだろうと予想して手に取った。 ところがページを開くなり、その予想はハズレたことを知った。山本さんは「はじめに」の冒頭で、こう宣言していたのだ。 「あ、そうなんだ。物理学の本なんだ」と、わたしは頭を切り替えてページ

日本最後のシャーマンたち ミュリエル・ジョリヴェ

本書はベルギー生まれの日本学者、ミュリエル・ジョリヴェが著した一冊だ。フランス語圏の読者に向けて出版したものを、逆輸入で日本語に翻訳し発刊された。日本の伝統的なシャーマニズムに焦点をあてており、現代社会においてシャーマンと呼ばれる存在がどのように変遷してきたかを説明している。 タイトルに「最後の」とあるのは、実際に彼女達(ほぼ女性)が生きている世代が今で最後となっているからだ。師弟関係や代々巫女として受け継がれてきた文化は、著者曰く最後の世代となった。著者はイタコ・カミンチ

『絶海 英国船ウェイジャー号の地獄』上半期もっとも興奮したノンフィクション。

1793年にグレートブリテン王国(イギリス)とスペインとの間に「ジェンキンスの耳戦争」という海上の覇権を争う戦争が勃発した。ローバート・ジェンキンスという商船の船長がスペイン当局に拿捕され耳を切り落とされるという事件への報復という名目でイギリス側が宣戦布告したためにこのような名前で呼ばれるようになった戦争だ。 この戦争はやがてオーストリア継承戦争にまで拡大することになるのだが、本書ではそのあたりの歴史は一切関係がない。本書『絶海』が扱っているのは、この戦争のさなか秘密の任務

これから出る本 2024年7月

最近の世の中は、なにかにつけ“○○パフォーマンス”と言われるようです。みんなそんなに急いで何になろうとしているのかしら…と思ったりしつつ、ぼーっとするのが何よりの楽しみです。出版業界においても「本の返品」という壮大なムダがあり、それを巡っていろいろな人が苦闘をしています。「ムダ」はこんなに嫌われるのに、どうして減っていかないのか。という悩みに答えてくれそうな本が出てきます。 ムダがなくなったら世界はどんな姿になるのか?ということを著者が考えていきます。フードロスはもちろん、

なぜ東洋医学はわかりにくいのか?『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』

この本を読み終えたら、きっと「あぁ面白かった」と思われるはずです。「勝手なこと言うな、なんでそんなことがわかんねん!」とお叱りを受けるかもしれませんが、まずはその理由を。  この本の企画は出版元である左右社の編集者・梅原志歩さんからいただいた企画書に始まります。そこには、 「西洋医学と東洋医学の専門家が『不調と病気との付き合い方』について徹底問答! 西洋医学と東洋医学はなにが違うのか、また違うに思えて実は共通するところも(あるのかどうか)? からだとはなにか、病気とはなに

ノンフィクションの舞台を訪ねて 陸前高田への旅

みぞれまじりの空の下、車窓から鉛色の海が見えた。いかにもリアス式海岸らしい入江になっていて、風があるのか波が高い。「この先、津波浸水区域」と書かれた道路標識を、私たちを乗せたバスは通り過ぎて行く。あれから13年。 「広田湾だ! 高田だー!!」山側の座席にいたはずの竹内さんが、海側の席に移ってきて、はしゃいでいる。彼女は何度も通った道だが、私が陸前高田を訪れるのは初めてだ。きっかけは、1冊の本だった。2016年11月に刊行された『奇跡の醤(ひしお)』。 陸前高田に200年続

先月出た本 2024年5月

今、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が話題になっています。確かに自分も…という心当たりのあるビジネスパーソンも多かったのでしょう。これが読まれたことで、読書量がどーんと増えたらものすごく嬉しい話です。で、話題沸騰中の著者、三宅 香帆さんが早くも新作を発売しました。それが『娘が母を殺すには?』です。 昨今大きなテーマとなっている母と娘の関係。それはフィクション、ノンフィクション問わず様々な本でもテーマとして掲げられています。いわゆる「母」の呪いに、小説やマンガ、ドラマ

『再生』加害者を赦せるか

読み終えたあとも、まだ消化できないものが残っている。こと読書では、これはマイナス評価ではない。たやすく消化できるものばかりが良い本とは限らないからだ。 この本の消化しづらい感じをどう説明すればいいだろう。とても大切なことが書かれているのに、それを著者と同じように理解するのは難しい、とでも言えばいいか。あるいはもっとわかりやすくするなら、次のような問いに言い換えることもできるかもしれない。 〈愛する人が傷つけられたとき、加害者を赦すことができるか〉 著者は「西鉄バスジャッ

『最強のコミュ力のつくりかた』コミュ力とは人としての魅力なのだ

皆さんはコミュ力に自信がおありだろうか?もしそれほど自信がないのであれば、本書の冒頭に記されている言葉はかなり衝撃的なはずだ。本書はこのような書き出しから始まる。 どうであろうか。バットか何かでぶん殴られたような衝撃を受けないだろうか?かく言う私もコミュ力が低いことを自認しているため、本書の冒頭部分を読んだだけで、KO負けしたかのようなダメージを食らった。何しろお前には人としての魅力が欠けていると言われているのだ。これほどの攻撃力ある言葉もなかなか無いではないか。しかも厄介