「寝たきりにならないリフォーム」(神戸新聞「随想」第7回)
2019年のお正月、夫の母と何のこともない会話の中で、家の大改造の計画ができました。米寿を迎える母が快適に過ごすためには、どんな選択肢があるのか。足腰は弱っているものの、幸い生活に困ることはない。なら何がベターなのか、をゆっくり話し合いました。できるようで意外とできないことだと思います。
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元気の源は、やはり食べることにある。米寿になっても何でもおいしそうに食べる母をみると、食は何より大切だと実感する。
神戸市の補助金で手すりや段差、お風呂の悩みは解消されたが古い台所の使いにくさをどうするかが問題となった。換気扇のスイッチは高くて届かず、老いて縮んだ身体に調理台も高すぎる。
補助金は認められなかったので自己資金でリフォームしようと決めた。予算は50万円。それくらいなら出せると母が言う。
施工会社に当たる前に勉強だ。
安楽玲子『住まいで「老活」』(岩波新書)は、認知症患者や寝たきり状態を防ぐために、一級建築士でケアマネジャー、住宅改修アドヴァイザーとして千件近いリフォームした著者の知恵が詰まっていた。直接話も聞いてきた。
安楽先生のアドバイスは、冷蔵庫を含め炊事場はコンパクトにシンプルにする、親はすべてに反対するから意見は聞いても言いなりにはならないこと、だった。
キッチンメーカーの多くは高齢者用の使いやすいセットを販売している。調べてからリフォーム会社に相談すると親身になって考えてくれた。
さすがにプロだ、横に広かった台所を、身体を一回転すれば冷蔵庫も調理台もコンロも使えるように設計し、手元に換気扇のスイッチも作ってくれた。
小さな椅子に座って調理も洗い物も、ちょっとした食事もできる。そうなると自分の食べたいものを作る意欲もわく。
床に座ってばかりいた生活が、立って移動することで運動することになり、食欲も出てくると母はがぜん元気になった。
年齢なんか関係ない。動きやすくするためのリフォームはこんなに大事なのかと驚いたのだった。(2019年12月12日)
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