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わたしの輪郭をたどる旅―上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』

書籍を購入するきっかけって、いろいろあります。
新刊が出るたびに読んでる作家さんだから。話題作だから。Twitterで見かけたから。あの人がおすすめしていたから。

でも、買ったあとのわくわく感がいちばん大きいのは「書店で見かけたから」かなと思うんです。

佇まいや、手に持った感触。
カバーの彩りや、タイトルの醸す空気感。

書店をふらふらさまよいながら、ふと目に入った書籍を手に取り、理由なんて分かんないけど、「これだ!」って思って、本を買う。それが与えてくれる高揚感は掛け替えのないものだと思うんです。

そして、今回ご紹介する本は、はっきりきっぱり書店で見かけて「タイトル」に惹かれて買いました。

だって、『老人ホームで死ぬほどモテたい』ですよ?

いろいろなシチュエーションを想像しちゃうじゃないですか!

恰好いいばあちゃんになって、老人ホームでぶいぶい言わせるとか。黄泉の帝王トート閣下(端的に言うと、死神 笑)率いるトートダンサーズが、りろりろ踊りながら迎えに来てくれるとか。

…どっちも現世への諦念が下地になってるかなしみよ(号泣)

とまぁ基本、想像力が斜めに全力「失踪」するワタクシですので(笑)、けっこういろいろ考えたのです。そしたら。

いつか老人ホームに入るころには、わたしの中の全てのわたしから、死ぬほどモテたい。

あとがきにあったこの言葉を読んで、五体投地ばりにひれ伏しましたよね(遠い目) 煩悩を炸裂させた全私が泣きました。

でも、この短歌集を最も端的に表したのがこの文であるとも思うのです。「いつか老人ホームに入るころには、わたしの中の全てのわたしから、死ぬほどモテたい」、そんな【私】の輪郭を探し歩いた短歌集。それが、この『老人ホームで死ぬほどモテたい』なのです。

■『老人ホームで死ぬほどモテたい』について

■上坂あゆ美著
■書肆侃侃房
■2022年2月
■1700円+tax

今、若い歌人たちは、どこにいるのだろう。……現代短歌は実におもしろい。表現の現在がここにある。「新鋭短歌シリーズ」は、今を詠う歌人のエッセンスを届ける。

というわけで、本書は書肆侃侃房さんから「新鋭短歌シリーズ」第5期として刊行された、上坂あゆ美さんの第1歌集です。「あとがき」を読むと、上坂さんはさまざまな表現で制作をしたけれど「いずれも楽しめ」ず、短歌に行き着いたとのこと。

だからこそ、「もう短歌のことだけは嫌いになりたくなかった」。

でね、私、この気持ちがすごく分かる気がするんです。

私にとっては、noteの書評記事がそれなのかな、と思えて。
noteに辿り着くまで、私もいろいろ足掻いて藻掻いて。でも、どれも馴染まなくて。だから、続けられなくて。投げ捨てて。あるいは、投げ捨てられて。

ひょんなきっかけで、えいやと飛び込んだのがnoteでの書評だった。

毎回、ふざけた書き方してますが(滝汗)、けっこう背水の陣的な気持ちで取り組んでいるんです。

だってね、本を読むことも書評を書くことも絶対に嫌いになりたくない。私は、これからもずっととにかく読み続けたいし、書き続けたい。

でも、どうしたらそれが出来るのか、死ぬまで読んで、死ぬまで書けるのか、その方法が皆目分からない。でも、ようやく見つけた「衝動を昇華できる場」を壊したくない。

そんな、気持ちのある意味勝手なリンクが、読み終えた今も、この本を何度も眺めさせるのかも知れません。

■本当の輪郭みたいなものを探す

たとえば。

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