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55日間外出禁止中、シェフの夫は何を作っていたか。〜3月22日 サブレ・ブルトン

外出禁止が始まって、おいしいスイーツにありつくのが難しくなった。最初のうちは営業許可に関する情報が錯綜しており、パティスリー(ケーキ屋)とショコラトリー(チョコレート屋)は店を開けられないのでは?などの憶測が飛び交い、店舗の人々も戸惑いを隠せない様子であった。最終的には、この2業種とも店を開けてよかったのだが、それでも従業員の身の安全を案じたり、経済的な理由(従業員を一時的解雇にして国家の保証対象にした方が得策になるらしい)などにより、多くのパティスリーとショコラトリーは店を閉じていた。

 夫もわたしもそれほど甘党ではないが、ないとやっぱり寂しい。スーパーでもパン屋でもスイーツは売っているが、適当なもので手を打つのは主義に反する。そこで、夫に「ちょっと甘いもの食べたいな」といってみた。まずはパンケーキ、そしてわたしの大好物サブレ・ブルトン。

 案の定、スーパーでは小麦粉が品薄。そして砂糖もほぼない。日本も同様と聞いているが、時間ができると人は粉物に触れるようである。粉物との接触には癒し効果もあるというから、理にかなっているのかもしれない。 

 3月20日のランチには、パンケーキではなく、ふっくらした日本風のホットケーキを焼いてくれた。もちろん、バターとメイプルシロップはたっぷりだ。夫は長い間料理人をやっているが、キャリアのほとんどをフランスで過ごしているため、日本風のホットケーキを焼くのは初めてだそうで、一般的な軽いパンケーキとの配合の違いを興味深そうに語っていた。ホットケーキを焼いたことのない人なんているのか、と驚いた。かくいうわたしは、ホットケーキミックスでしか作ったことないので、配合もなにも語れないのだが。

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 2日後にはサブレ・ブルトンを焼いてもらった。いつも、「きょうは◯◯作ろうよ!」と誘うのだが、それは「◯◯作って!」という半ば強制の依頼である。わたしは、焼けて甘い香りがするのをぼんやり待っているだけだ。

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 サブレ・ブルトンはブルターニュ風のサブレという意味で、バターたっぷりで少し塩気のきいた、サクサクしたクッキー。フランス菓子の中では、基本中の基本といっても異論は出ないと思われる。材料はシンプルで、プロセスは知る限り複雑ではない。だからこそ、レシピと作る人により味に大きな差が出る。夫のレシピも例外なくシンプル。しかし、夫が作るとサクサク軽く仕上がるのに、なぜかわたしが作ると重たい食感になる。オーブン温度や手際の悪さが原因だろうが、シンプルなお菓子ほど難しいとは本当なのだな、と気付かされた。

 ちなみにこのサブレ、とてもおいしいので「これ売ればいいんじゃない?」と進言してみたところ、「こんな贅沢な材料使ってたら、採算取れないからダメ」と却下された。それもそのはず、このサブレには、バニラビーンズとブルターニュ産のバターがしっかり使われているのだ。採算度外視の贅沢サブレ、いちど美食を愛する友人たちにも食べてほしいものである。


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