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55日間外出禁止中、シェフの夫は何を作っていたか。〜3月26日コション・ド・レのロティ

 おこもり生活にも少し慣れてきた頃、外出規制がさらに厳しくなった。3月24日からは、運動や散歩での外出は半径1km以内、1日1回1時間のみ。買い物での外出には距離も時間も規制はなかったが、どうせ遠くまで行くといろいろ言われて、罰金を取られるに決まっている。このあたりから、外出は多くても1日1回、という家のルールができたのだと記憶している。

 買い物には行けるものの、できるだけ回数は減らしたい。そこで、冷蔵庫に眠っている食材を使うことが多くなった。忘れ去られていた食材も、数多く発掘された。そのひとつが、コション・ド・レの脚である。

 コション・ド・レとは乳飲み仔豚のことで、その名の通り母乳しか飲んでいない赤ちゃん豚。高級食材である。だいたい生後6週間までのおチビちゃんだ。可愛い盛りの仔豚ちゃんを食べてしまうなんて、なんと残酷な!と責められそうだが、そのクリーンでミルキーな風味、柔らかで繊細な食感を知ると、申し訳なさ以上に「こんなものを頂けて・・・ありがとうございます!」と感謝の気持ちでいっぱいになる。人間は、実に罪深い生き物だ。

 断っておくが、常時このような高級食材が家にあるわけではない。昨年末、日本に住む親たちがパリを訪れた際、用意したごちそうの残りである。残しておいても仕方がないので、ごくごく普通の日に食べることにした。ロックダウン中、食べる以外には特に楽しみがなかったので、ごちそうで気分を盛り上げていたのだ。

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 家で育ったローズマリーとオリーブオイルで数時間マリネして、オーブンに入れて120度で1時間加熱。その後、皮目をフライパンでパリッと焼き上げる。コション・ド・レは、皮まで柔らかいので、皮をつけたまま調理できるのだ。こうすると、外はパリパリ、中はしっとり柔らかなロティ(ロースト)に仕上がる。成長した豚肉とはまったく違う、あっさりした味わい。うまい、うまい、と言いながら、あっという間に食べきってしまった。

 ちなみに、うちの家では柚子胡椒を添えて食べるのが定番だ。まあ、焼いた肉には、どの種の肉でも、もれなく柚子胡椒をつけてしまうのだが。作っている料理は洋風なのに、食べ方はどこまでも日本人なわが家である。


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