見出し画像

パーソナル・リーダーシップの有無が人生の明暗を大きく分ける

あなたはフルマラソンを完走したことがありますか。自転車で160kmを走破したことがありますか。経験がない場合、やってみようと思いますか。できると思いますか。自分が良いと信じるが誰もが反対するアイデアを押し通し、最後までリードし成功へ導くことができますか。

パーソナル・リーダーシップ(Personal Leadership)とは、自分自身を客観的に知り、自分と向き合い、自分の感情や意思をコントロールでき、自分と戦い、自分自身の進む道を自ら開拓し、走り続ける資質です。これがある人は自分の思いのままの人生のレールを敷いて進むことができます。そうでない人は、出世できない、行きたくないとこへ転勤させられる、いつも忙しくやりたいことができない、など常に他人に振り回される人生で終わります。

パーソナル・リーダーシップは、機械に置き換えられないために必要なスキルのピラミッドで紹介した、その中でも全ての基礎となるスキルの一つです。どうやって磨くのか、見ていきましょう。

そもそも「リーダーシップ」とは?

リーダーとしての資質をリーダーシップと言います。ではリーダーとは?グループのリーダー、チームのキャプテン、会社の社長、国の首相や大統領といったところですね。彼らの役割は何でしょうか?「組織のメンバーに仕事を振り分けて指示し、仕事をしてもらうこと」でしょうか?違います。これはボスではあってもリーダーではありません。このようなやり方は、上からの指示を忠実に遂行することで成り立っていた軍隊でももはや通用しません[1]。

リーダーとはリードする人、つまり先頭に立って人を引っ張っていく人のことです。マラソンなどのレースで先頭走者のことを英語ではリーダー、先頭集団をリード・グループと呼びます。つまりリーダーとは、同じ道を同じ目的を持って歩む仲間全員が、後について行きたい、追い越したい、と思えるだけの能力と行動力と影響力を備えている人のことです。素晴らしいリーダーに恵まれたグループは、どんな困難にぶち当たろうと、最後まで物事をやり抜きます。そしてどんな困難の中でもリーダーは、先頭を走り続けます。時には、自分より優れた能力を持ったメンバーに先頭を交代し、グループとして出す結果を向上させることもあるでしょう。しかし最後にゴールするときはリーダーが先頭です。だからリーダーなのです。

もうお分かりですね。パーソナル・リーダーシップとは、自分自身をリードする能力と資質です。もう一度マラソンを想像してみましょう。あなたは自分自身をリードして走っている。自分の中には「これが限界だ」という弱音が常にあります。しかしパーソナル・リーダーシップのある人は、その弱い自分を引っ張っていくことができます。つまりパーソナル・リーダーシップとは、自分自身を客観的に知り、自分と向き合い、自分の感情や意思をコントロールでき、自分と戦い、自分自身の進む道を自ら開拓し、走り続ける資質ということです。

自分自身を客観的に知る

私は運良く、自分自身を客観的に見つめ直す機会を、若い間に得ることができました。

その第一は大学受験に失敗し、どこの大学にも受からなかったこと。自分を客観的に見つめ直すことしか、次にやることが見えなかった。自分は今まで何をやっていたのだろうかと。そこで気づいたのが、自信過剰で自らを充分に切磋琢磨してこなかったこと、面倒なことや苦手なことから逃げていたこと、大学へ行く目的意識や将来の目標と目の前の勉強とがリンクされていなかったことでした。

二度目は、大学オーケストラの指揮者をしていて、コンサート本番3週間前くらいだったでしょうか、音楽がうまく流れないのは自分の指揮のバトンテクニックの問題だということに気づいた時でした。指揮者はオーケストラに指示する立場ですから、友達も先輩も誰もそれを指摘してくれなかったのです。つまり長い間オーケストラの皆は多大なフラストレーションを蓄積していたことにハッと気づいたわけです。でもどうやって改善すれば良いのか全く分からず、まさに壁にぶち当たった瞬間でした。

しかし、私のように壁にぶち当たってからでなくとも、自分自身を客観的に知る方法はあります。それは自己分析です。様々なやり方がありますが、いくつか私が実際に使っている方法を紹介しましょう。

得意ー不得意 vs. 好きー嫌い マトリックス

自分の得意ー不得意を5段階で横軸に、好きー嫌いを5段階で縦軸にしたグリッド上に、いろんな物事を書き出してみることです。例えば、化学が好き(5)で得意(5)だとか、英語は好き(4)だけど苦手(2)だとか。あるいはプレゼンをするのは嫌いではない(4)が、いつもなかなかうまく説明できない(1)など。これによって、好きだが不得意なこと、好きで得意なこと、嫌いだが得意なこと、嫌いで不得意なことに4分類でき、どうするかを整理して考えられるようになります。

長期〜短期目標分析

自分の死後、周りの人にどのような記憶として自分のことを覚えておいてもらいたいでしょうか?これが超長期目標です[2]。これを言葉として書き留めます。では10年後にはどうなっていたいでしょうか?長期目標として書き出します。これを1年の目標まで落とし込んだら、それらが関連しているかどうか、読み返してよく考えましょう。そして1年後の目標を達成するための具体的なアクション・プランを書き出し、それに対してコミットすることです。

ダンプ・リスト(Dump List)

これは忙しくなったり「あれもやらなければ」「これもやらなければ」と頭の中がごちゃごちゃになってきたり、上司とうまくいかない、などの心配事があったり、などという状況の時に有効です。心配ごとや頭の中の考えをを全て書き出しましょう。思いついたことならなんでも良いのです。きれいに整理する必要はありません。ダンプをひっくり返したように、プライベートなこと、仕事のこと、なんでもごちゃまぜで結構。

次に、書き出した項目を次の三つのカテゴリーに分類します。A. 自分のコントロール下にあるもの、B. 自分がインフルエンスしてなんとかなるもの、C. 自分ではどうしようもできないもの[2]。

ステップ3として、分類A、そしてBの順に、各項目に対するアクションを書き出します[3]。分類Cはそのまま放っておきます。一つのアクション・プランは動詞一つと目的語一つだけで実際に自分のアクションを瞼に映し出せるくらいクリアに書きます。そうすれば、このアクション・リストに対して優先順位をつけることは簡単になります。これが今後しばらくのToDoリストになるのです。

自分の感情や意思をコントロールする

私は大学3年生の頃から社会人2年目頃まで、ヘビー・スモーカーでした。フィルターなしのショート・ピースを1日に20本近く吸っていた時期もありました。タバコがないとやっていられない。右手にタバコを持ちながらフルートを練習もしていました。しかし、タバコをやめようと決めてから実際にやめたのは翌日でした。誰のアドバイスでもなかったですし、なんの代替品も使いませんでした。意思力のみです。それ以来一切吸っていませんし、今では煙が苦手です。私にとって断煙は、今振り返ってみれば意思力を鍛えるという点からは非常に良い経験になりました。

好きなものを断つというのは、意思力の鍛錬には非常に良い方法だと思います。断食、座禅などはまさに同じですね。

自分と戦い、自分自身の進む道を自ら開拓し、走り続ける

私は社会人3年目の途中から、後にも先にも例のない、親会社であるDow ChemicalのR&Dセンターへ派遣され、1年間の研究後に帰国し、愛媛県新居浜市に完成直前であった新工場のスタートアップ・チームにプロセスR&Dとして加わりました。しかし工場のスタート・アップ・チーム(製造課、エンジニアリング、品質管理課)からすれば、R&Dなんていてもいなくても良かったのです。だから「なんでもいいから役に立つことをする」みたいな勢いで仕事を始めたのでした。工場の猛者たちの中で最初はまさに孤軍奮闘状態でした。工場長を相手に、自分が研究してきたコスト削減方法を工場で実際にやってみようと、何度も提案したりしたものです。毎日早朝と夕方に工場の複数の場所で自分でサンプルを取り、熱処理し、射出成型でサンプルを作り、それの耐熱テストをかけ、またプロセスのコンピュータから流量や圧力などのデータをダウンロードし、品質管理やエンジニアリングとは別の方法で毎日データを積み上げました。そして1年後に、品質問題が浮上したとき、私のデータが解決方法を既に示唆していました。その瞬間、ベテランの製造部長や工場長などの私に対する態度が180度変わったのを今でも鮮明に覚えています。それまでは「ろくに仕事もしていないのに口ばかりうるさい若造だ」と思われていたに違いありません。その時点までに実際に目に見える形での私の貢献は何もありませんでしたから。

後にP&Gに転職してからも、製造チームからは同じような洗礼を受け、入社1年後に栃木工場での新製品のスタートアップの問題解決でもって一目置かれることになりました。

私にはこういった経験があったため、後に40歳を過ぎて(それまでスポーツなんて全くダメだった)マラソンに初挑戦した時にも、足が攣って、血糖値が下がり切って全身が痺れた状態でも完走できたのだと思います。

まとめ

パーソナル・リーダーシップとは、自分自身を客観的に知り、自分と向き合い、自分の感情や意思をコントロールでき、自分と戦い、自分自身の進む道を自ら開拓し、走り続ける資質です。これはリーダーとしての土台となり、大きな問題解決に貢献できる一つの礎石になるのです。

Reference
[1] McChrystal, S. (2015). Team of Teams - New Rules of Engagement for A Complex World, New York: Penguin Publishing Group
[2] Covey, S.R. (1990). The 7 Habits of Highly Effective People, New York: Sion & Shuster
[3] Hale, G.A. (2011). Think Fast! Accurate Decision-Making, Problem-Solving, and Planning in Minutes a Day, Hoboken, New Jersey: John Wiley & Sons
Header Image by Tim Hipps, U.S. Army. Original is here.

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?