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「本も音楽も人の心を動かす力がある」。元公務員ライターが選ぶ、私の一冊とテーマソング

「書く人」に、人生のなかで出会った印象深い小説と、物語に合わせたテーマソングを選んでもらう「私の一冊とテーマソング」

第1回では、2023年からフリーランスライターとしての活動をスタートして、すでに複数のメディアで記事を執筆するゆかりーぬさんに、幼少期の読書体験を経て出会った小説とテーマソングについてお聞きしました。

自身のnoteでは、仏像爬虫類ポケモンなど、好きなものへの溢れんばかりの愛がつまった記事をたくさん発信しているゆかりーぬさん。

そんな多種多様な好きの矢印をもっている彼女が選ぶ、一冊の小説とテーマソングとは——。

ゆかりーぬ
京都府南部出身、愛媛県在住。高校卒業後は、愛媛県の臨時職員で事務職、NHKの契約社員で事務職兼スタジオカメラマンを経験する。市役所の職員採用試験に合格し、正職員として約9年勤めた。2023年9月に退職し、フリーランスとして独立。

音読するのが好きだった幼少期、ファンタジー小説との出会い

——まずは、今のお仕事についてお聞きしてもよろしいですか?

ゆかりーぬさん(以下ゆかりーぬ):
2023年の9月末まで市役所に勤めていましたが、現在はフリーランスのライターとして活動しています。ただ、将来的にはライターにとどまらない働き方もいいなと考えています。

——『Epilogue→』では「小説を入り口にして新しい興味に出会うこと」をテーマにしています。子どものころから、本を読むのはお好きでしたか?

ゆかりーぬ:
私の家は、本を読む習慣がつけば頭が良い子に育つイメージがあったらしく、本ならいくらでも買ってくれていました。家族で図書館に行くこともありましたね。

あと、幼稚園のころは叔母が毎月、買ってくれたディズニーの小さい子向けの雑誌が大好きで、1人で音読することもあったみたいです(笑)。

——幼稚園生のころから雑誌を音読していたんですね…!本には不自由しない環境だったと思いますが、最初に小説と出会ったときのことは覚えていますか?

ゆかりーぬ:
初めて読んだ小説は覚えていなくて…ただ、ハードカバーの『ハリー・ポッター』シリーズは叔母が全巻持っていて、小学校の低学年ごろから、すでに読んでいた気がします。

他には『ダレン・シャン』『デルトラクエスト』とか…『ダレン・シャン』は母が特に気にいってましたね。

当時は、物語のなかでも現実離れした世界観が好きだったので、実際に体験できないファンタジー小説の世界が、読んでいて楽しかったのかもしれないです。

登場人物に感情移入して、自分も彼らの気持ちを体験したくなる

——本を読んで新しい興味に出会った経験はありますか?

ゆかりーぬ:
たくさんあります!たとえば、原田マハさんの『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』は、作品を読みおわってからアートに興味をもって、美術館にも行ってみたいと思うようになりました。

——私も全く同じ経験をしたことがあります…(笑)。原田マハさんの作品は、美術やアートに対する愛が随所に感じられますよね。

ゆかりーぬ:
そうなんです。それに『楽園のカンヴァス』は、時空を飛びこえて時系列もバラバラに物語が展開される、独特なストーリーの描き方をしていて。

現代と過去の話が交互に出てくるので、理解するのは難しかったんですけど、とても面白かったですね…。

数年前に物語を読みおえてからは、『楽園のカンヴァス』に登場するピカソのことがずっと頭に残っていて、今年は、広島で開催されていたピカソの展覧会にも行きました。

ただ、私、熱しやすくて冷めやすいんです…(笑)ずっとはその熱量が続かなくて、転々と興味が移ってしまう。

たとえば、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』を読んでピアノに興味を持ったり、小川糸さんの『ツバキ文具店』を読んだときは、お手紙を書くのもいいなって思ったり。

——小説を読むと、実際に自分でも体験してみたくなるということですか?

ゆかりーぬ:
そうそう!登場人物に感情移入して、あのとき流れていたピアノの曲はどんな曲だろう、聞いてみたいなって。

あと、先ほど紹介した『ツバキ文具店』ですごく素敵だったのが、小説のなかに、実際に手書きで書かれたお手紙の挿絵があったことです。

イメージが鮮明になったおかげで、読んだ直後は影響されて、手紙を送る相手も決めていないのにやたらと便箋を見にいってました(笑)。

私は8人目の仲間として、登場人物のそばにいる気持ちだった

——今までのお話のなかでも様々な本が出てきましたが、今回、選ばれた本のタイトルを教えてください。

ゆかりーぬ:
私が選んだ小説は『かがみの孤城』です。

——2019年に本屋大賞を受賞した辻村深月さんの作品ですね。なぜ『かがみの孤城』を選んだのですか?

ゆかりーぬ:
『かがみの孤城』はファンタジーの世界観を残しつつ、リアルな描写も多く描かれていて、キャラクターも多すぎず、ちょうどいい人数感で読みやすかったんです。本自体はかなり分厚いのですが、どんどん次の展開が気になって、1日か2日ぐらいで読みきりました。

——いっきに惹きこまれる魅力があったのですね…。この物語では、7人の中学生が登場しますが、印象に残っているキャラクターはいますか?

ゆかりーぬ:
私が印象に残っているのは、ウレシノくんというキャラクターです。『かがみの孤城』の登場人物は学校に通えてない子が多くて、彼もその1人。

そんなウレシノくんが、物語の途中でピックアップされるシーンがありました。その場面では、お城のなかで交流していたみんなと同じように「いや、何があったの!」って、とても驚きましたね(笑)

——とても個性的なキャラクターですよね(笑)。登場人物のなかでは、ウレシノくんに感情移入することが多かったんですか?

ゆかりーぬ:
感情移入というよりは、みんなと一緒にお城にいる感覚ですね。私自身がウレシノくんに入り込むというわけではなくて、彼に何かあったとき「大丈夫?」と声をかけてあげる、8人目の仲間みたいな感覚。

だから、登場人物といっしょに、そばにいるようなイメージで読んでいました。

——実際に物語の世界を体感していたんですね…!その後、紆余曲折ありながら物語は進んでいきますが、読みおわったあとはどんな想いでしたか?

ゆかりーぬ:
率直な気持ちとしては、みんな良かったなって安心しました。一人ひとりの人生、いいことばかりではなくて、辛いこともたくさんあった。でも、結果として、絶望で終わるわけではなく、現実と折り合いをつけて、前に進んでいたのが印象的でしたね。

登場人物たちが抱える心境と重なった歌詞

——今回は、選んでいただいた『かがみの孤城』につながるテーマソングもつけていただきました。どんな曲を選ばれましたか?

ゆかりーぬ:
私は、SUPER BEAVERスーパービーバー『人として』を選びました。

——SUPER BEAVERといえば、ストレートな歌詞が印象的なロックバンドですね。

ゆかりーぬ:
SUPER BEAVERの曲って、まっすぐな歌詞が多いと思うんですけど、『人として』も本当にまっすぐで。

歌詞には「信じる」や「愛する」という言葉が多くて、人間関係って確かにそうだよなってあらためて思いました。

——ただ『人として』は、ポジティブな言葉が多いSUPER_BEAVERの曲のなかでも、残酷な現実に対してどう立ち向かっていくか、問いかける歌詞が印象的です。

ゆかりーぬ:
歌詞の冒頭から、人は「騙す」とか「隠す」とかマイナスな言葉で始まる。でも、最後には「笑える」と歌っているんですよね。

人は騙す 人は隠す 人はそれでも それでも笑える
人は逃げる 人は責める 人はそれでも それでも笑える

人として/SUPER BEAVER 歌詞引用

『かがみの孤城』という作品でも、現実世界ではたくさんつらいことがあって、最初、登場人物たちはそれぞれ、過去を隠した状態で対面する。でも、そんなよそよそしい関係を経て、最後には笑いあえる。

ハッピーエンドとは言いきれないけれど、今後に託された行動でいくらでも未来は変えられると、希望を持って終わる部分が小説とリンクしていたので選びました。

実際、逃げ場所があってもいいと思うし、そういう場所も必要だと思うんです。でも、ずっとそこにはいられないから。

そんなある意味、残酷で、綺麗事だけではない部分が描かれているところも『かがみの孤城』と重なりましたね。

——どちらの作品にも共通する心境があったんですね…実際、小説と音楽は全く別のジャンルですが、それぞれに繋がりや共通点を感じることはありますか。

ゆかりーぬ:
本も音楽も、どちらも人の心を動かせるものだと思います。

小説は長い時間をかけてじわじわと人の心を動かすイメージで、音楽は短い一曲のなかで聴いた人の心を動かせる。長さで考えるとぜんぜん違いますけど、どちらも人を動かす力があるなと思いました。

物語を読みおえたとき、きっと自分は1人ではないと気づける

——最後になりますが、今回、選んでいただいた『かがみの孤城』はどんな人に読んでもらいたい1冊ですか?

ゆかりーぬ:
迷ってる人、今がしんどいなと思っている人にこそ読んでほしいです。もしかしたら、しんどい時期に読むと、よりしんどくなってしまうシーンもあるかもしれない。

でも、読みおえたとき、きっと自分は1人じゃないと、そう、気づいてもらえる気がするんですよね。

——それこそ『人として』を一緒に聴きながら読むと、いっそう勇気をもらえる1冊になるかもしれないですね。

ゆかりーぬ:
そうですね。そのときはしんどくても、ずっと続くわけではないし、幸せになるかどうかも分からないけれど、人生はそういうものだから。

——この小説を通して、新しい興味や感情に出会ってほしいですね。本日はありがとうございました!

〈取材・文=ばやし(@kwhrbys_sk)

【ゆかりーぬさん セレクト小説&テーマソング】

かがみの孤城/辻村深月

人として/SUPER BEAVER



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